目覚めた朝、私が初めて見たモノ。
流れる赤い水、無数の同じ姿をして赤い水の中を漂う少女達。
その、無数の同じ姿の少女達と私が同じ姿だと気が付いたのは生まれて初めて鏡を見た時だった。
…私は綾波レイ。
エヴァンゲリオン零号機パイロット。
ファーストチルドレン(最初の適格者)
…そして、造られた人間....。
私は赤木博士の研究室に来ていた。
研究室の中には私の他には3人いた。
一人はサードチルドレン、碇ジンシ…私はこの人の事を"碇君"と呼んでいる。碇司令の子供だ。
碇君は、エヴァ初号機専属パイロットだけどエヴァとのシンクロ率は良いものの、エヴァのパイロットとして…つまり、戦う要員としては碇司令が言うには"使えない"そう。戦闘の仕方が稚拙で闇雲に突っ込んで行くだけの子供のような戦い方だと言っていた。ただ、パイロットは数がいるわけでなく、私が戦えなくなった時の予備として存在しているだけ…そう言っていた。
それから、セカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレー…彼女はとても気難しい性格(と、赤木博士が言っていた。)なので私の事を名前でなく、パイロットとしての呼称の"ファースト"と呼ぶので私も彼女に合わせて彼女の事を"セカンド"と呼んでいた。(その方がいいと赤木博士が言っていた。)
私の次にエヴァパイロットとして選出された彼女だけど、その彼女も"予備"だそう。弐号機専属の搭乗者だけどその弐号機もいざ彼女が使い物にならなくなった時には私が搭乗する事になっている…らしい。
いずれも"私の替わり"らしい。
その"私"すら"替わり"はいるのは初めて目覚めた朝に知った。
だから赤木博士は「みんな"駒"なのよ…碇司令のね。」と、言っていた。
そして最後の一人は赤木リツコ博士、E-計画責任者。エヴァを造った人。
でも、本当にエヴァを造った人は他にいると私の中では感じていた。
エヴァを造った人は他の誰かがいる。そしてどこかで見ている…そんな気がしていた。
私たちパイロット3人は研究室の中で赤木博士からエヴァとのシンクロやその他の事項について説明を受けていた。
説明に関しては私にとってもう既に知っている事項ばかりだったけれど私は黙って聞いていた。
そして赤木博士は説明を終えると博士の机の上に置かれていたポットをおもむろに取り、カップの中にコーヒーを注いだ。
その様子を見ていた惣流・アスカ・ラングレー…セカンドは、
「あ、一息入れるんですか?
私、いい子にして話聞いてたんですから私にもブレイク・タイムに一杯下さ~い♪」
と、言い出した。
それを聞いたサードチルドレン…碇君は、
「何だよ…。
アスカだけがいい子にしていたわけじゃないだろ?」
と、抗議した。
「何よ!!アンタのどこがいい子なのよ?!」
「そう言うアスカの何処がいい子なんだよ?!」
どうやら二人の口論が始まったらしい。
私は黙って二人の様子を見ていた。
というよりも私はこういう口論というモノをしたことがないし、ほとんどこう言った場面に出くわす事もなかった。
だから私は黙って見ていた。
「はいはい、二人とも。
程度の低い争いはやめなさい。」
そう言って赤木博士は棚からカップを二つ取り出した。
そして博士は唐突に私に向かって尋ねた。
「レイもいる?」
………
…私はどう答えたらいいか、どうすればいいのか、分からなかった。
…コーヒー…飲んだ事がない。それに今は欲しいと思わない。
それに…こういう話の流れ…雰囲気…知らないし、わからない。
「私は…いいです。」
私はそう答えて赤木博士の研究室から出た。
私は赤木博士の研究室から出て自販機コーナーに来ていた。
…コーヒーって、おいしいのかしら?
私はそんな事を考えていた。
セカンドは赤木博士に自分も欲しいとせがんでいた。
私はポケットから硬貨を取り出すと自販機からコーヒーを購入した。そして近くの長椅子に腰を掛けてコーヒーの缶のプルタブを開けるとそれを一口、飲んでみた。
苦い…。
その時、私はそれがあまりおいしいものとは思えなかった。
どうしてセカンドはこんなモノを欲しがったんだろう?
私はほんの少し、疑問に思った。
「ちょっと。アンタこんな所で何してんの?」
突然、声をかけられた。
振り向くとセカンドが両手に缶を二つもって立っていた。
「…コーヒーを飲んでいるの。」
私は正直に答えた。
別に黙る必要のある事ではないから。
「はぁ??
アンタさ、さっきリツコさんがコーヒーいるかどうか尋ねた時に『いらない』って
答えたクセに缶コーヒー買って飲んでんの?」
「…私、飲んだ事なかったもの。」
そう言って私は一呼吸置いて言った。
「……でも、おいしくないわ。」
私はそう言い終えると床をじっと見つめた。
「ふーん、アンタってコーヒー好きじゃないんだ。」
そうセカンドは言い終えると突然、セカンドが手に持っていた二つの缶のうちの一つを私の前に差し出した。
「……?
何?これ?」
「ミルクティーよ。
アンタにあげるわ。」
そう言って私の手にミルクティーの缶を渡した。
私は渡されたミルクティーの缶をじっと見つめた。
「…何よ、アンタ。飲まないの?」
「…飲めばいいの?」
「はぁ?アンタバカァ??
せっかくこの私があげたんだからありがたく貰って飲めばいいのよ。」
ややきつめの口調でセカンドはそう答えると、手に持っていたもう一つの缶…彼女のもミルクティーだった…のプルタブを開けて飲み始めた。
私は手渡されたミルクティーの缶のプルタブを開けてそのミルクティーを一口、飲んでみた。
「…甘い…。」
「そりゃそうよ。無糖なんかじゃないミルクティーだもん。」
「…でも…コーヒーよりおいしいわ。」
私は素直にそう思ったので答えた。
「そぉ?
ま、アンタにはコーヒーよりもミルクティーの方が合うってことかしらね?
でもコーヒーも一人で飲むよりみんなと飲めばおいしいわよ?」
セカンドはいつもよりも違う口調…そう、優しげな口調で言った。
……一人よりもみんなと…
私にはその言葉が心の中に入り込んでいくのを感じた。
…そう、私はいつも一人。
他の誰かと何かをするということがほとんどなかった。
あったとしたらパイロットとして、学校で必要に迫られて、そして"あの人"の何かの用の時だけ。
そしてセカンドは自ら歩み寄って一緒にミルクティーを飲んでいる。
初めての経験。
そんなコトを考えていたら不思議な感情がわき上がってくるのを感じた。
…そう、あの時、あの人にあの時、助けてもらった時に感じたものとよく似た感情…
不快じゃない、とても暖かくて心地いい…
…嬉しいの?私?
「…ちょっと、ファースト!
何ボケボケってしてんの??」
セカンドが少し怪訝そうな顔をして尋ねて来た。
「…いいえ、何でもないわ。」
私はそう答えると一息ついてからこう言った。
「これ…ありがとう。
とても嬉しかったわ。」
「ちょっ…!!
な…なに言ってんのよ!」
セカンドは顔を赤くして顔を背けてしまった。
…それでも私は…
今日の事はとても嬉しくて…。
そしてそれまで興味を持てなかったセカンドに対して初めて好感を持った。