アスカが僕の上から頭をもたげて起き上がる。
そして僕に向かって憎々しげに言う。


「だぁ?もぉ?!アンタ見てるとイライラすんのよ!!」


その美しい顔は苛立たしさで醜く歪んでいる。
僕はそんなアスカに気怠く答える。


「自分みたいで?」



これが僕らの初めての夜だった…。

DeepForest - 深い森 -

前編

あれから何年経っただろう?
一般的にはサードインパクトと呼ばれている。
人々が一つの魂に、一つの体に、永遠の命の中に、全てはLCLの中に融けてしまったあの出来事。
存在していたのはただ一つの命、僕の…綾波の回りに融けあって、皆が一つになった瞬間。
僕はあの瞬間、何かの選択肢を迫られたような気がする。
記憶が曖昧で全てが有耶無耶でよく覚えていない。
ただ、僕は他者の存在を求めた気がする。
…そして最初に会ったのがアスカ。
…何故アスカなのか分からない。
別に特に好きだったってわけじゃなかった気がする。
ただ、やたらと僕の印象に残って離れない子だった。
あの頃一緒に暮らしていたから?
それとも…自分だけ逃げ出して楽になってたクセに僕がどれだけ叫んでも僕を助けてくれなかったから?
…もう、そんな事、今ではどうだっていいけど…。
今思えば可哀想な子だったとは思う。でも、その当時の僕にそんな事を考えるような頭はなかった。
…何もかもどうでもよかった。

…他人も。
そして僕自身も。

あれから僕は奨学金か何か…、出所の分からないお金で学校に行って生活している。
…一人暮らし。
そう、あの頃一緒にいたミサトさんやアスカがいるわけじゃない暮らし。
今の僕の保護者は…誰なのかわからない。
父さんではない。あの後に父さんは"行方不明"になった。
多分、帰ってこられなかったんだと思う。
結局僕の保護者って誰なのか…。
僕を中学まで預かってた先生?どこかの知らない遠い僕の親戚?それとも公的機関か何か?
…わからないけど気にしてもしなくてもとりあえず学校には行けるし、暮らして行ける。
貯金は…とりあえずは大学までの生活くらいまでは確保されているみたい。
…まぁいい。とりあえず生きて行ければ。

…そういえば…
アスカは何処に行ったんだろう?
サードインパクトの混乱に紛れて見失ってしまった。
…だけど、たしかに彼女はあの場所に居た。
僕が首を絞めて呻いた時の声も忘れないし、あの時の言葉も忘れない。
…本当に…別に好きってわけじゃなかった。
ただ、彼女はずっと僕の心に残って離れなかった。

今日も気怠い授業が終った。
僕は部活…音楽部だけど、そこでチェロを弾く。
これも、自分の部屋では引けないから。
それなりの防音設備は整っているけどチェロの低重音は響きやすい。
学校から帰ってから唐突に弾きたくなって弾くと結構な近所迷惑だったから部活に入って弾いている。
でも、その部活も出たり出なかったり。気が向いた時にちらほらと参加している。
コンクールとかあったけど僕は参加しなかった。
大勢の人達の前で弾く気はなかったし、本気でやっているわけでもなかった。
部員達は特に目立たない僕が来ても来なくても気にしないでいた。
僕はほとんど幽霊部員に近かった。
適当に知ってる曲を弾いて、それで終わり。
僕はそうして学校で日の昇っている時間を潰して自分の部屋へ帰って行く。
そして勉強を一応するだけしたら適当にテレビを呆然と見て寝る。
他は寝ているか、音楽を聞いているかのどちらか。
適当な毎日だ。

僕はその日、部員達がみんな帰ってしまうまでチェロを弾いていた。
そして、一人になってからチェロの弦を緩めてケースにしまって僕の今の家…自分の部屋に帰る事にした。

夏は日が暮れるのが遅い。
学校の部員達が全員いなくなった時間でようやく日が傾きかけてきたくらい。
僕は帰り道をぼんやり下を向きながらゆっくりと歩いて行った。
…僕の部屋のあるワンルームマンション…いや、ほとんどアパートかな?までの坂道、いつもは昼夜人の気配は少ないのだけど…そこに夕日を浴びて長く延びた人影を見た。
僕はふと顔を上げた。
坂道の横…廃屋と修繕された家や新築の家が立ちならぶこの道の壊れかけた塀にもたれかかって俯くように立っている女の子…。
いつか見た赤みがかった長い髪の彼女。

アスカがいた。

中編へ

本当はひとまとめにしたかったのだけど今日はタイムアウトで前編のみ。
というか、頭の中でラストのシーンがまとまらなくて(というか寝てなくて動かない頭が余計に動かない)ダラダラと時間だけ過ぎて次回持ち越しになってしまいました。
まぁ、アフターEOEモノ??
とにかく我が脳内の中にあった劇場版エヴァのその後。
…なんだかあの物語ってこういうのを想像してしまいますよね?
すごく意味深な(もしかしたら意味なんか無いのかもしれないけど)ラストだったので…。

しかしこの文章というかシンジ君はかったるそうにしてますけど多分、元々の私の脳内の劇場版エヴァその後のシンジ君イメージとモトネタにしたタイトルがいけない…。
ちなみに今回のタイトルのモトネタはThe Beatlesの"ノルウェーの森"。
かったるい曲です。はぁ。
初出: 2005/04/23
Author: AzusaYumi