- ネルフ分析室 -
「これではよくわからんな」
「しかし、浅間山地震研究所の報告通り、この影は気になります。」
「もちろん無視は出来ん。」
「マギの判断は?」
「フィフティ・フィフティです」
「現地へは?」
「すでに葛城一尉が到着しています。」
明日は平日だけど学校は休み。
…もっとも私とファーストとバカシンジだけだけど。
そう、クラスの連中は修学旅行。私らチルドレンは使徒襲来にそなえて待機。
つまり、第3新東京市で人類のお守。
クラスの連中も人類の生死をかけてるのによくもまぁ、私らだけを取り残して行けるもんね。
…正直、楽しみにしていたのに。
私は旅行とかそういう類はほとんど行った事なかった。
大体にして勉強と学校とネルフでのエヴァとの接続実験ばかりに付き合っていた私がどこかに行くという事自体考えた事もなかった。
だけど行けるとなれば楽しみにしていた。
こんなに楽しみにしていたのはどのくらいぶりかなってくらい。
ファーストは行けない事を元々知っていたらしいから気にしてなかったらしいけどシンジの方は知らされてなかったのにほとんど気にもしてなかった。というよりも予測していたらしい。
まだ事前連絡していればそれほど腹も立たなかったけどミサトのバカがギリギリまで知らせてくれなかった。
…というか、そういうのは当然という態度。
…たしかにドイツのネルフ支部に居た頃の私なら気にしなかったかもしれないし、当然という風に取っていたかもしれない。
ただ、ドイツで大学まで出たのにここに来たら今さらのように中学生にさせられて私もその気になってしまっていた。で、結果はコレだ。
ミサトも家族ヅラしながら結局は作戦部長…軍人さん。
…私もあまり本当に思っている事とかを他人に知られたくなかったりする事があるから外面と内面を使い分ける事があるけど、あそこまでわざとらしくない。
というかやる事成す事全部が演技みたいであの女の本性が何処にあるのかわかったもんじゃない。
…そういう意味ならネルフの連中皆に言えるけど。
正直言ってこういうのって気持ち悪い。
…どこかですっきりさせたい…。
「ねぇ、シンジ。
明日さぁ、学校ないし、プールで泳ごうか?」
お風呂から上がってリビングでのんきにテレビを見ているシンジに言ってみた。
「…ミサトさんが明日はネルフで特別講義って言ってたろ?
…無理だよ…。」
やっばりな。そう来ると思った…。
「あ、そ。」
ミサトに飼いならされてるっていうか、それとも諦めの早い従順なバカなのか…。
そういう意味ではファーストの方が一枚上手っぽいかもしれないけど言い訳がましい分、シンジの方がむかむか来るわね。
次の日、私はネルフへ出かける時間を早めに起きてミサトのマンションを出た。
シンジはまだ寝ていたけど一緒に出かける義理はない。
…というか、"ファーストの家に行く"ってのはギリギリまで黙っとく。
最近ファーストの事は特に嫌悪してるってわけでもないし…いや、むしろ放っておけない。
ただ、バカシンジの方が目立ってムカムカしてくる。
…なんで私ってアイツと一緒に暮らしてるんだろ?
一緒に居てもイライラするだけなのに。
やっぱり二体分裂使徒…イスラフェル戦の時に同時荷重攻撃の為のユニゾン訓練の一時的同居だけでその後まで暮らすのは解消しとけば良かったかな…。
でも、今さら家から出るってのもミサトとかに対してシャクだし。
…そんな事を考えていたらファーストの部屋にたどり着いた。
…結構早めに家を出たからこの時間ならファーストはまだ部屋にいるはず…。
時間厳守なヤツだからね。アイツってば。
とりあえずインターフォンを押してみる。
カチ。カチカチ。
…鳴らない…壊れてる??
何よこれ? こんな所まで抜けてるの??っていうか、ここ自体が廃屋に限りなく近いけど…。本当、こんな所をファーストにあてがったあの碇司令は何考えてんだろ?
…これは引っ越しを最初に提案した方がよかったかな…??
なんていつものポーズで考えていたらドアのキーが開いてファーストが部屋から出て来た。
「ちょっとファースト!!
部屋のインターホン壊れてるじゃないの!!
今度直しておきなさいよね!!」
開口一番、ファーストに次までの生活改善の指示を出しておいた。
「…どうしてここにいるの?」
ファーストがほんの少し眉をひそめて尋ねて来た。
…まぁ、"一緒にネルフに行きましょ!!"
…やめた。
"アナタとワタシはオトモダチ"っていうの、今さらってカンジ。
「アンタを迎えにきてやったのよ!
私とアンタとバカシンジは今日はネルフから召還だからね!
それに放置しとくとアンタまた辛気くさい生活してそうだし。
その監査も兼ねてよ。」
とりあえずいつもの語調の強いのでファーストに言い放った。
さて、それはさておき、本題に入りましょうか。
「そうそう、アンタ、こないだ水着買ったでしょ? ネルフ行ったら泳ぐわよ!!
持って来なさいよ!」
これを聞いたファーストはまた眉をひそめた。
「…特別講義は受けないの?」
ああ、ファーストってばクソがつくほど真面目ね。
…同じくあの"勉強会"を受けるつもりでいるアイツ…ミサトに言われてうんちくって言う感じのどっかのバカは真面目のうちに入るかどうか怪しいけど。
その前にクソ真面目なこの"優等生"の場合は…。
「アンタ、成績悪いワケ?」
「…いえ。特に問題ないわ。」
「…じゃあ大丈夫ね!!」
よしよし、オッケー。
ファーストはそのまま踵を返して部屋の中に入っていった。
しばらく待っているとこの前水着を入れるのにいいって買わせた袋を持って玄関先に戻って来た。
「…持って来たわ。」
「よしよし。 お勉強会はバカシンジだけで十分なのよ。」
私がそう言うとファーストは視線を下に落としてしばらく考えるようなそぶりを見せてから私の方に視線を戻して聞いて来た。
「…碇君は一緒じゃないの?」
は?シンジ?なんでシンジ?
コイツ、シンジのコトが気になるワケ??
元々出来てるんじゃないかと思ってたけどそういうコト??
「何? アンタ、シンジが気になるの?」
私はファーストにそう聞き返した。
そしたらファーストは首を横に振ってから言った。
「いいえ。
一緒に暮らしているのに一緒に来なかったから気になっただけ…。」
…なんだ、そんな事か。
アイツは家にそのまま放置っていうか無視してここに来たんだけどな…。
私は鼻を鳴らしてファーストに言った。
「…一緒に暮らしているからっていって、 一緒に出かけなきゃいけないってことないわよ。」
ファーストはこの言葉を聞いてそれ以上シンジの事は聞こうとせずに「いきましょう」と一言言っただけだった。
私とファーストは電車の中とかで適当な話とかをした。
大体がファーストが聞き役で私が結構一方的に話していたけど(ファーストはわりと聞き上手だった)ちょっと前までファーストとこんな風に話すなんて考えた事がなかったのでちょっとおかしく思ったりもした。
そしてファーストと一緒にネルフのゲートまで来てみると…。
…シンジがいた。
シンジは案の定、私とファーストが一緒にいる所を見て驚いたような顔をした。
「…あ…、やぁ、綾波。アスカと一緒なんだ…。」
「ええ。」
ファーストはいつもと変わらない単調な返事をした。
私はそんなシンジの様子を見て皮肉をたっぷり込めて言った。
「あら、シンジ。意外にお早い到着ね。
ぐっすり寝てたようだから大幅な遅れで到着するかと思ったわ。」
これを聞いたシンジは不快そうな顔をして言った。
「別に、目覚ましセットしておいたし。そんな事言うなら起こしてもいいんじゃないの?」
…バカシンジのクセに一端に私に口答えか…。ふん、上等じゃない!
「…別にアンタを起こす義理はないわ。」
これに対してシンジが何か言いたそうな顔をしたけどファーストが、
「…行かないの?」
と、言って割り込んで来た。
…まぁいいけど。
私は無言でゲートのカードリーダーにIDを通してゲートをくぐった。
その後を黙ってシンジがリーダーにIDを通して私の後をついてきた。
そして最後にファーストがIDを通した。
私たちは黙ってネルフ施設の通路を歩いていたけど通路が二手に別れた所で私は立ち止まってシンジに向かって言った。
「じゃ、私らこっちだから。」
「え? 特別講義のある第二会議室ってこっちじゃないの?」
バーカ。誰が出るかっての!!
私はニヤリと笑ってシンジに言ってやった。
「お勉強会はアンタ一人だけ。 私らはプールで泳ぐの。」
「なんで?アスカだって成績悪かったじゃないか。」
…ふん。"わかってない"って顔よね。
私は心の中でもニヤリと笑ってシンジに余裕綽々として言った。
「だーって、ファーストは成績不良じゃないって言ってるし、
私は習うことなんかないも~ん。」
これを聞いたバカシンジはまだわかってない顔をしていた。
私は極めて普通に、すましてシンジに向かって言った。
「…悪いけど今時あんな数式使う物理…違う、理科だったわね? や数学に興味ないわよ。
私が大学行ってた頃なんかもっと複雑な数式使って計算してたわ。」
「…大学?」
…シンジはもっとわからないって顔をして言った。
…コイツは私のプロフィールとか"ドイツから来たセカンドチルドレン"程度しか知らないんだよね…。
そして今まで私がどうしていたかとか聞こうともしなかったし。
私は隠すつもりはなかったけどわざわざ教えるつもりもなかったから黙っていたけど…。
…大体自慢したからっていって意味があるわけじゃないし、それをカサにきて他の人を小馬鹿にするつもりもなかったし。
でも、今日はちょっと言わせてもらいたいわ。
「去年卒業したのよ。アンタ、努力足らないわ。少しは勉強しなさいよ。 …じゃあね。」
そう言って私は二手に別れた道の片方の方へ歩き出した。
「…碇君、私も行くわ。 …じゃあ。」
ファーストもそう言うと私の後についてきた。
ファーストと私は更衣室で着替えをしていた。
私はツーピースの水着…。ストラップでちょっとスポーティーなデザイン。本当ならこれで沖縄でダイブするはずだったヤツ。
ファーストは真っ白なワンピース型。味気も素っ気もないドシンプルデザインで買う時に一応、「ドシンプル過ぎるんじゃない??」と言ったけどファーストは「これでいい」と言った。まぁ、着てみれば結構似合ってるみたいだったけど。
そして着替え終わったからプールの方に向かうはずだったのだけど唐突にファーストがぼそりと言った。
「…あなたは碇君と仲が悪いの?」
突然の事で驚いた。
ファーストが他人の仲を気にする? なんの心境の変化??
「…アンタがそんな事聞くとは思わなかったわ。」
でも、シンジとは最近あまり仲がいいとも悪いとも言えないし…。
…この辺り、あまり突っ込んで考えたくないし話す内容もないから、
「…ただアイツがいるとイライラするだけよ。
…大体アイツ自体も私の事は気にも掛けてないからいいんじゃないの?」
と、言っておいた。
そしたら珍しくファーストは、「…そうなの?」と、食い下がって来た。
「そーなの! そんな事よか泳ごうよ!」
私はそれ以上話したくなかったのでファーストの質問を終らせて更衣室のドアを開けた。
私はプールサイドまで来るとあるものを探した。
ミサトに手配するように言っておいたモノ。
それは屋内プールの外と仕切られたガラス際に置いてあった。
…スクーバー用のボンベやその一式。
既に置いてあったボンベに手をかけた。
そんな私の様子を後からついてきたファーストが見て尋ねて来たので、「沖縄でスクーバ出来なかったリベンジよ!!」と、言った。そしたら、
「…今日、一緒に来る時にあなたはそんな物を持って来てなかったわ。」
…ナイス突っ込み。
私は両手を腰に当てて言った。
「ミサトに持ってこさせたわ!!
私らチルドレンだけ修学旅行取り止めとその連絡遅れの代償よ!!」
ファーストはこの一言で納得したようだった。
…ま、ミサトの顔はかなりの難色を示したけどね…。
私は一式を身にまとってマウスピースをくわえるとそのままプールサイドに腰掛けた。
「見てて!ファースト! ―バックスクロールエントリー!!」
ザボン!
私は後ろ向きにプールの中に飛び込んだ。
と、飛び込む寸前、警報の音が響いたのを耳にした。
私はすぐに水面に顔を出してマウスピースを外して回りを見た。
「…なに?! 使徒?!」
…警報が鳴り響いている…。
やっぱり使徒だ…。
私は身にまとっていたボンベとかを外してそのままプールサイドに放り出してファーストと共に急いで更衣室に入って行って着替えて作戦室の方へ向かった。
「アスカ、レイ、遅かったわね。」
ミサトが厳しい口調で言った。
何を今さら偉そうに…!
「…まだネルフ施設に居ただけ早いじゃん!!」
ミサトの高圧的な態度に反発するように私は抗議した。
それを聞いたミサトはまた厳しい口調で言った。
「シンジ君はあなた達よりも先に来たわ。」
こんな時にいやらしいコト言うわね!!この女…!!
私はミサトの嫌味に似た言葉に対して制するように言った。
「ミサトのシンジびいきは聞きたくないわ! それよりも作戦は?使徒は?」
ミサトはこの言葉に対して何か言いたそうだったけど表情を引き締めると今回の作戦事項の伝達を始めた。
「今回は使徒殲滅ではなく、使徒捕獲の捕獲を行ないます。」
…使徒の捕獲…?
どういうコト?
私がそう疑問に思うとリツコさんが引き次ぐように説明し始めた。
「浅間山の火口内で羽化前の、言わばさなぎの状態の使徒が発見されたの。
今回はその使徒の幼体を捕獲してサンプルとして回収するのが今回の作戦。」
サンプル…なるほど、それは分かった。でも…
「ちょっとまってよ! それって、私らがエヴァでマグマの中に飛び込めっていうの?」
私がそう言うとミサトが答えるように言った。
「ぶっちゃけ、そういう事になるわね。
エヴァに局地戦用のD型装備をさせ、火口内に進行。そして使徒捕獲と回収。
…これが今回の作戦になるわ。」
こっちから打って出る…か。
…でも、"殲滅"でなく"捕獲"。
しかも結構極限状態ってカンジの場所で…か。
使徒が人間にとって敵というのは分かるけど…あんなもん、エヴァで戦闘してても結構危ないヤツラなのに生きたままどうこう出来るのかしら?
私がそんな事を考えていると突然ファーストが声をあげた。
「…私が行きます。」
…はぁ??
私は突然のファーストの宣言に驚きと懸念を抱いた。
「…なんでアンタが行くのよ!?」
するとファーストは慄然とした態度と表情で淡々と言った。
「…この作戦は危険だわ。 ……私が行った方がいいわ。」
私はファーストの言っている意味が分からなかった。
危険なのはいつの戦闘だって同じじゃない…。
…それに私が行ってもファーストが行っても同じ事じゃない。
「だからなんでアンタが行った方がいいのよ? アンタが行くなら私が行くわよ!」
私はファーストに向かって言い放った。
しかし、ファーストはまるで譲らないといわんばかりの顔つきで言った。
「…いえ。 私は死んでも構わないけどあなたや碇君は死んではいけないわ…。」
…死んでも構わない…?死んでも?!
って…コイツ、自分が何言ってるのか分かってるワケ??
私は一言ファーストに言おうと思ったらリツコさんがファーストをこれまで見た事の無いくらい睨んで、
「…レイ!」
と、言った。
ファーストは何かに気が付いたようにリツコさんの顔を見て下を向いた。
…何?コイツら何か黙ってる…?
私が不信に思っている間にシンジが声をあげた。
「ちょっと待ってよ! …なんで綾波は死んでも構わないんだよ!?
そんな事言うんなら僕が初号機で…」
私はそれを聞いてムッとした。
…何やる気になってんのよ!?コイツ!
ファーストも変なコト言うし、シンジもむかつく!
私は居ても立っても居られずに思わず言った。
「…待ちなさいよ! シンジもファーストも行かせないわ。この作戦は私が行くわ!!」
私は絶対に譲らないという態度で言った。
それを聞いたミサトが私の方を見て、そして全員に向き直って言った。
「今回の作戦は弐号機に担当してもらいます。
…どのみち、D型装備はプロダクションモデルのエヴァにしか付けられないわ。
テストタイプの初号機とプロトタイプの零号機は規格外よ。」
「じゃあ私で決まりね!」
私は強気に言った。
するとファーストがまたさっきと同じように言った。
「…私が弐号機で行きます。」
何よ!コイツ!!
いつにもまして食い下がる!!なんでそんなに出たがるのよ!?
その前に弐号機は…。
私はファーストを睨んで"前にファーストにやっていたように"指をさして言った。
「ダメよ!! 私は弐号機の専属パイロットなの!悪いけど、アンタには乗せさせないわ!!」
そうファーストに言い放つと私はミサトに向かって言った。
「いいわよね?ミサト?」
「…わかったわ。」
ミサトは冷静にそう答えてきた。
作戦は決まった。
半ば勢いで私が出撃。
正直疑問に思う点もあるけど…とにかく、それは後。
今はとにかく作戦遂行の事を考えよう…。