走る、走る、走る。
私は走る。
後から追いかけてくるモノがいる。
ゆっくりと、ゆっくりと。
コイツに追い付かれたらいけない。
追い付かれたら、また一人で歩いて行かなきゃいけない…
ダメ、それだけはダメ!!
もっと速く!!もっと!!もっと!!!もっと!!!!!!
…シンジ…
あんなにゆっくりと歩いているのに、
何故、私に追い付こうとする?
……いえ、
本人にそんなつもりはない。
ただ、後ろから来てゆっくりと同じ方向に向かっているだけ。
でも、
追い付かれそう…
それはイヤ。
アイツと並ぶのはイヤ。
アイツに追い越されるのもイヤ。
一人にされるのはもっとイヤ。
最近、シンジのエヴァとのシンクロ率の上がりがいい。
順調…という言葉が合うかな?
私の方は…、現状維持。良くも悪くもなってない。
だいたい平均50~60%程度。
私はこれ以上のエヴァとのシンクロを求めたけど、リツコさんは下手なエヴァとの高シンクロと精神接続はエヴァからの汚染が始まるからこのくらいが妥当だと言われた。
…過去にそれと酷似した事例の事故が起こったらしい。
詳しく聞こうとしたらリツコさんは「機密事項よ」を、理由に教えてくれなかった。
…そういえばママがおかしくなった時も、ママが死んだ時も、詳しい理由は誰も教えてくれなかった。
ママが死んだ時の事は…多分私が知っている、と、回りの関係者には言われていた。
…その辺りの事は事情が事情なだけに自分の為にもあまり深く追求するのはやめた。
ただ、ママがおかしくなった実験の事故の事は知りたかった。
でも、やはり"機密事項"を理由に教えてくれる事を拒否された。
それはともかく…、
私は四歳の時にすでにエヴァのパイロットとして選出されていたのに突然、ここ最近になってエヴァのパイロットとして選出されたシンジがあんなに高シンクロなのかは疑問だった。
…私は今のシンクロ率をはじき出す為にかなりの訓練と実験を重ねたのに…。
訓練無しであんな高シンクロを保てるのか謎だった。
突然エヴァのパイロットとして選出されたシンジ。
そして…ファースト。
アイツはシンジ以上に謎だらけ。
…マルドゥック機関によって最初に選出されたエヴァパイロット、ファーストチルドレン。
経歴は全て抹消済み。
エヴァとのシンクロは高くもなく、低くもない。
元々がプロトタイプ…零号機のエヴァのパイロットだからシンクロさえすれば各種データは採取出来るはずだけど、今は余裕がないから実戦投与。
私は弐号機専属パイロットだけどファーストの場合、一応、零号機に乗る事にはなってはいるけど、シンジの話では最初の使徒戦では初号機に乗るかもしれなかったらしい。
…じゃあ、アイツは特に決まった機体の専属のパイロットではない…?
…どうも分からない事が多すぎる。
教えてもらおうとすると"機密事項"を盾に何も知らされない。
…命がけで戦ってるのは私たち、チルドレンなのに…。
シンジと共にミサトのマンションから学校へ登校した。
シンジはつねに私の後ろをついて行く。私と横に並んで歩く気はないらしい。
まぁ、その方がいいんだけど。
ただ…なんだか避けられているような気もしなくはないような…、
少し…、なんていうか…、
…ああ、もう!!
よくわからないわ!!
「バカシンジ!!
私の後ろを金魚のフンみたいに付いて歩くの、やめてくれない?!」
よく分からない憤りを感じた私は後ろを歩くシンジに向かってそう叫んだ。
「…ごめん。」
「はぁ。
またそうやってすぐ謝る!!
自分が内罰的だって思わないの?!」
「そんな事言ったって…。」
完全な八つ当たり…。
自覚はあるけど止まらない。
でも私はシンジを見ているとイライラする。
…なんでこんなヤツに…。
私がイライラとそういった事を考えていた時にシンジが一言呟いた。
「…何をどうしたって怒ってたクセに…」
「ああん!?
今、アンタなんて言ったの?!」
「…別に…。」
私は舌打ちして一言怒鳴りたい衝動に駆られた。が、かろうじて押さえる事が出来た。
…元々は特に意味の無い八つ当たりだ。
ストレス解消にしてもこれ以上はさすがにみっともない。
結局私とシンジはそれっきり無言で通学路を学校に向けて歩いて行った。
私たちは校舎の昇降口まで来た。
私はいつも通り、靴箱を開けた。
…やっぱり入ってる、ラブレターの山。
私はかたっぱしからラブレターを靴箱の中から引っ張り出してたたき落した。
「…せっかく出してもらったのに…」
後ろから付いて来てたシンジがボソっと言った。
「…ふん!!
いくら私がクォーターのエヴァパイロットで物珍しいからっていって、この数は異常よ!!
…この手紙…お祭り騒ぎとからかい半分でしょ!!」
私はそう言って、たたき落したラブレターを踏み付けた。
そんな私の様子を見たシンジが一言言った。
「そんな事したらヘンな手紙が来るよ…」
「かまわないわ。
出したヤツを諜報部で洗い出して、今度は弐号機で踏みつぶしてやるわよ。」
私はそう言い放つと上靴に履き替えて教室に向かって歩き出した。
授業中、私はヒマでヒマで仕方なかった。
レベルが低い授業内容…まぁ、中学だからだろうけど、でも、周りの生徒…。
今の自分達の学力を自覚しているのだろうか?
私に取っては修得済みの課題ばかり。でも彼らはまだ終ってないだろう。
私は国語と歴史(家庭科は単純に好きではないけど)以外は特に聞く必要もないけど彼らは聞かなくてはいけないのに私同様、寝ているヤツや話をしているヤツやよそ事をしているヤツが多くいる。
アンタら、まだ習ってないんでしょ?勉強しなさいよ…。
…生あくびしながらそう思った。
…そういえば…、
朝からファーストを見かけないな…。
どうやらファーストだけネルフからお呼出だったようだった。
ファーストは命令至上主義というか、やたらと義務とかをただ忠実に実行するヤツだから学校はネルフの用事がない限りは来そうなものだったから、"いない"ということはネルフの用事だ。
随分前に使徒戦で零号機は大破したらしいけど既に修復・調整・起動実験共に終了。
今は待機任務のみ…のはずだったんじゃないの?
シンクロテストとかは私たちも同時に行なう事が多いからファーストだけ来ないというのはつまり…特別?
なんとなく気にいらない。やっぱり碇司令のお気に入り…か?
何もしなくてお気に入りなんていい気なものね。そういう辺り、シンジとそっくり。
アイツは何の努力もしないでエヴァパイロット選出、シンクロ率も上乗。
…本当、いい気なものだわ。
つまらない午前の授業が終わり、昼の休憩時間。
私は授業終了のベルが鳴ってすぐにシンジの席まで行った。
そして片手を腰に、片手をシンジに突き出して言った。
「シンジ!!ランチ!!」
「…え?」
シンジはきょとんとして私の顔を見た。
…わかってないわね、コイツ。
「だ~か~ら! お昼のゴ・ハ・ン!!」
「…な…ないよ…。」
…本当は私はシンジが今日お弁当を作ってなかったのは知っていたけどわざと聞いてやった。
「はぁ? なんで?」
「今日、作ってこなかったから…」
「じゃあ、アンタはどうするつもりだったワケ?」
「僕は三時間目の休憩の時にパン買ったんだけど…」
フン!!やっぱりね。予想的中。
さぁ、ここが本番ね。さて、どうやってシメてやろう?
私はニヤリと笑ってシンジに問いかけた。
「じゃ、私の分は?」
「え?」
「だ~か~ら! 私の分のお昼は?」
「…ごめん、ない…。」
シンジは申し訳なさそうに言った。私は"ちゃ~んす!"とばかりに失望した!!というような顔つきをして言った。
「ええっ?!
一緒に暮らしてるのにお弁当も用意してもらえないなんて!!
しかも自分の分だけしか買って来てないのぉ~???
同じエヴァのパイロットで二人で死線を乗り越えて来た深ぁ~い仲なのに!!
しんじらんな~い!!」
…と、おいおい泣く真似をした。
クラスのみんなは騒ぎ出し、シンジはオロオロし始めた。
ぷっくくくく…ば~か!!
私のコトを考えなかった罰ね!!
そして様子を見ていたヒカリがバッ!と、立ち上がってびしっ!!と両手を腰に当てて言った。
「碇君!!あなた…自分の事しか考えてなかったの?!
一緒に暮らしてるんだから! ちゃんとアスカの分も買うのが当然でしょう!!」
と、言い出した。
…いや…、コイツはそんな所まで気が利くヤツじゃないってば…。
そうヒカリに言いたくなったけどやめた。
…そう、シンジのこういう所はわかっていた。
分かってはいたけど…。
「じゃ、じゃあ…僕の分を…半分…あげるよ…。」
シンジは苦虫を噛み潰したような顔をして言った。
私はシンジの席の側に椅子を引っ張って行った。
「はい、これ。」
シンジは三つほどあるパンの内、カレーパンを私の方に差し出した。
私は黙って受け取った。そして二人で終始黙って食べた。
結局、三つあったパンは二つは私が、一つはシンジが食べた。
「……。
お昼くらい、
自分の分だけじゃなくて私の分も買って来てくれてもよかったじゃない…。」
私がボソっと言うと、シンジが私の方を振り向いて言い訳がましく話し始めた。
「だって…!
アスカ、今日僕が弁当作ってなかったの、知ってただろ?
だから、自分で買うかと思ったんだよ!
それに昨日はネルフのシンクロテストで遅くなって寝るの遅かったし…。
そんなに毎朝早起き…」
「あーもーいいわよ!!」
私はシンジの言い訳を制止しようと声を出した。
…と、同時に教室の戸が開く音が聞こえた。
教室の中が一瞬静かになった。
戸の方を見てみたら…ファーストだった。
クラスの皆はファーストだと分かるとまたワイワイ話し始めた。
…そういえば…コイツだけネルフに呼ばれたんだ…。
私はその事を思い出してシンジに向かって言った。
「シンジ!!
今度私のお昼忘れたらただじゃおかないわよ!!」
「え?なんでだよ?!」
「うるさいわね!!
ちょっとは気遣いとか覚えなさいよね!!」
「それはアスカも同じだろ!!」
ああ、もう!!
最後の最後まで煮え切らないヤツね!!
とにかく、私はシンジとの会話を終らせてファーストの席の方へ行った。
「優等生!!Guten Tag!」
ファーストに『一応』、午後の挨拶をした。
「…?」
…どうやらファーストには理解出来なかったようだ。
「ドイツ語の午後の挨拶よ。
随分と重役出勤だけどアンタだけネルフで実験?」
「ええ。」
「ふうん。やっぱり優秀なパイロットは違うわねぇ~。
私たちはお呼びじゃないのにアンタだけ実験?」
そういってせせら笑ってみせた。
でもファーストは特に動じるわけでもなく一言言った。
「多分。」
…"多分"?
単純に答えてはいるけど…曖昧な返事…。
コイツは単純な返事しかしないけど曖昧な返答はしないヤツだった…と、思ってた…けど?
「…は?
"多分"って何よ?
アンタ、何してたの?」
「わからない。」
…わからない?
自分が何して来たかわからない?
「分からないって…何よ?
アンタ、説明とか受けたんでしょ?
…っていうか、シンクロテストか何かじゃなかったの?」
「違うわ。
ただ、LCLの中で戦闘をイメージすように言われただけ。
それ以上の事はわからない。」
え…?何よ、それ。
シンクロテストじゃなければ戦闘訓練?
でも戦闘訓練はただ戦闘をイメージするんじゃなくて実質的に銃器の操作とかをレクチャーしたりするものよね?
…大体それならそうってコイツなら言いそうなものなのになんで
"それ以上の事はわからない"
なの?
「説明無しに実験???
アンタ、何の疑問も持たなかったの?」
そう聞いたらファーストが一瞬険しい顔をして言った。
「持ったわ。
でも、聞いても多分、教えてもらえない。」
…コイツも疑問に持った?
どういう事?
大体コイツが教えてもらえないって何?
「アンタ、碇司令のお気に入りなんでしょ?
そのアンタに教えない実験って……」
丁度その時、午後の授業の始まりを告げるベルが鳴った。
「…ちっ!!
ファースト!!この話はまた後でね!!」
私はそう言って自分の席に戻って行った。
やっとウザい午後の授業が終った。
私は帰りの支度をしているファーストの席へ急いで行った。
「ファースト!」
「…なに?」
…ふん!!相変わらずそっけない返事ね!!
私は両手を腰に当てて言った。
「あんたってばもう忘れたの?
…さっきの話の続きよ!」
「…あれ以上の事は無いわ。」
そう来たか。
でも私は食い下がって言った。
「でも腑に落ちないわ!」
「私、本当にあれ以上の事を知らないの。」
ファーストは真剣なまなざしで言った。
…コイツがウソをつくとは思ってなかったが先日から私たち、エヴァパイロットには何も知らせないネルフスタッフ達の態度に不信感と不満を募らせていた私はファーストに再び食い下がった。
「いえ、アンタの知っている事は他にもあるはずよ?
まがりなりにも無頓着なアンタも疑問に思ったんでしょ?
同じエヴァパイロットとして知らないのもシャクだし、
とにかく!!
今日の細かい状況とか聞かせてもらいたいわ!!」
「あの…アスカ?」
私がそういい終えようとした瞬間にバカシンジが話しかけて来た!!
…なんて間の悪いヤツ!!
空気読みなさいよ!!
ホンット! 気が利かないんだから!!
「あーっ、もー!!
アンタってなんでそんなに間が悪いのっ?!」
「ごめん…。」
私はその声を聞いてイライラした。
謝るくらいならやるな!!コイツのやる事成す事ほんっっとうにイライラする!!
「…で、何なのよ?」
「いや…あの…今日は綾波と話して帰るのかな…って、思って。
遅くなるならアスカって夕飯とかどうするのかなって。」
…ん…、
気遣ってるワケ?
聞きに来たタイミングは悪かったけど話の内容は悪くはなかったので私は気を取り直して言った。
「ん…、遅くなるかどうかわかんないけど、食べれるように用意しておいてよ。
ネルフの事だからココで話すのまずいからファーストの家にでも行くわ。」
シンジとファーストが私のこの言葉に少し驚いたみたいな顔をした。
「アスカが、綾波の家に?」
「なんか悪い?」
「いや…、綾波はいいのかな…って思って。」
…とっさに言ったものの、実のところ私は碇司令のお気に入りのファーストがどんな生活をしているのかとか興味があって、一度ファーストの家を見てみたかった。
「ファースト、アンタの家で話してもいいわよね?」
「別に構わないわ。」
ファーストは表情一つ変えずあっさり了承した。
ファーストは私を自分の自宅のある場所へ案内した。
…かなり町外れだ。
…周りがマンモス団地のように立ち並んでいる。
…何か、工事の音が聞こえる…。
周りを見るとこの団地は取り壊しが進められてるようだったので先の棟の方から工事の音が鈍く響いていた。
…人が居ない閑散とした場所…。
ファーストがいつも見せる雰囲気にはお似合いだけど、世界を救う為のパイロットを住わせるにはかなりお粗末なイメージがした。
「…アンタ、こんな所に住んでるの?」
「ええ。」
「…殺風景ね。」
「そう?私にはわからない。」
ファーストはまったく動じた様子もない。
…こんな所で平気なわけ??
しばらくしてファーストはマンモス団地の中の一角…自分の部屋の前まで私を案内した。
…周りに人が住んでいる気配がない…。死んでいるようなイメージ。
「ここがアンタの部屋?」
「そう。」
ファーストは私の問いかけにそう答えるとそのままドアを開けた。
鍵は?
「…アンタ、鍵かけてないの?」
「壊れてるわ。」
「…なんで直さないのよ?不用心よ?」
「いいの、別に。」
は?何よそれ??
コイツ、自分の立場が分かってるの??
不用心もいいところだわ!!
私は少し大き目の声を出してファーストに言ってやった。
「アンタバカァ?
借りにも世界を守るエヴァパイロットでしょ?
いつ、よくわからない奴らが狙ってくるかもしれないのに鍵かけないなんて!」
「そう?」
なんでそんな所でいつもみたいにすっとぼけんのよ、コイツは!!
私はそれが当たり前と言わんばかりに「そうなの!!」と言い返してやった。
そして私は鍵のかかってないファーストの部屋の中へ入って行った。
靴を脱ごうとした時に散らばったダイレクトメールの下の…玄関の床が酷く汚れているのに気が付いた。
…日本の家って土足厳禁なんでしょ?なんでこんなに汚れてんのよ?
ミサトのマンションに住むようになってから靴を脱いで家に上がるというのがクセついている私は一気に不愉になった。
そしてファーストの部屋の中まで入って行くと…
……ナニコレ?
剥き出しのコンクリート。
壊れかけたエアコン。
血の付いた包帯とベッド。
小さな冷蔵庫、その上の水の入ったビーカーと散らばった薬。
天井から吊るされた洗濯干し。
椅子が一脚。
そしてチェストが一つ。
それがこの部屋の全てだった。
何一つ人間味を感じるモノがない。
…まるで拘置所か病室のような部屋。
「何よ…この部屋?」
「何?」
「だから何なのよ?!この部屋は??
これがチルドレンの…エヴァパイロットの部屋??」
「ええ、これが私の部屋。」
…嘘でしょ?
少なくとも私はネルフの独支部で一時的に両親の家以外で滞在するのにあてがわれる部屋とかでこんなのにされた事はない。
「ほとんど何もないじゃない!
それに汚いし…。
それになんなの?この剥き出しのコンクリートの壁!?
壁紙もないの?」
「最初からなかったわ。」
最初から無い?
コイツがここに来た時からこんなのなの??
私はファーストの部屋の中の唯一の家具であるチェストの方を見た。
「これ、アンタのだよね?」
私はそう言ってチェストの引き出しを開けさせてもらった。
「…下着…だけ?
服持ってないの??」
「制服があるわ。」
制服だけ?
…そういえばコイツが制服以外の服装したのはプラグスーツか学校の体操着かスクール水着くらいだ。
なんでロクに服も買わないの?
…それよりこの異常さはなに?
…何か狂気さえ感じる。
…ファーストからじゃない。
この部屋、この場所、そして…碇司令。
「アンタ、碇司令にひいき…
いえ、それなりにいい待遇されていたと思ったのに…」
「それで、話はしないの?」
ファーストが私が忘れていた話題を突然持ち出した。
…コイツは自分の今の現状を気にしてない…??
「え…?ん…そうだったわね。」
これは私が思ったより…
私を取り巻く全てのモノが予想していた以上に異常な状態ではないかと思い始めた。
だから私は気持ちを引締めてから改めて言った。
「で、アンタさ…、今日何て言って呼ばれたワケ?」
「いえ、ただ "ネルフに出頭するように" と、命令されただけ。」
「じゃあ、具体的に何して来たの?」
「碇司令と赤木博士と共に地下施設のLCLのプラントのような施設まで連れて行かれて、
LCLの満たされたガラスの管のような中で戦うイメージをするように、
と言われてそうしただけ。」
「戦闘訓練と違うの?」
「…多分。」
ファーストの異常な部屋。
そして異常な待遇。
そして知らされない実験。
私はファーストの顔を見てみた。
ほとんどアルビノに近い白い肌と赤い目。
…何か…、
そう、私が大学時代の研究室で実験用に飼われて様々な実験に使われ、破棄されてきたラット…白いねずみ達を思い出した。
私は生物学を選考していて勉強とレポートのデータ取りや教授や博士たちの実験の為に何匹も犠牲にしてきた。
あの頃はただ野心的に単位、学位を取りたい為に犠牲は仕方が無いと感傷的になる事はあまりなかった。
…でも、ファーストを見ていたら…。
私は独り言のように呟いた。
「リツコさんと碇司令はアンタ使ってなんかしようとしてるのかしら?」
私は実験用の白いねずみ達の事でママの事を思い出した。
…ママは何かの実験の被験者になってそしてその為に私が分からなくなった。
…ネルフは何をしようとしてる?
ファーストは何のためにここにいる?
ファーストに向き直って言った。
「ねぇ、アンタってさ、こんな生活させられて、
自分が実験動物か何かみたいな扱いされてると思わない?」
「…考えた事無かったわ。」
自覚なし。
…いえ、
今までのコイツの話し方からして自覚さえさせられないようにしてる…???
「…ま、話は大体わかったわ。
とにかく秘密裏にリツコさんと碇司令が何かしでかそうとしている。
そしてアンタは実験台の一人。
そして…」
私はここで言葉を切った。
そして…私はある事を思い付いてニヤリ、とした。
そしてファーストに再び言った。
「アンタはこれからこの部屋の鍵の修理と部屋の内装の大幅変更、
衣服の購入って所かしら?」
そしてニンマリと笑ってファーストに言ってやった。
「まず、生活変えなさいよ。アンタ」
私はこの時、この瞬間から完全にファーストに対する認識が変わった。
そう、コイツは実験室の中のケージに閉じ込められてる白いねずみのようなもの。
人間らしさや人間らしいモノを持ってないし何も知らない。
ただ使われているだけ。
そして私もその立場に近い。
…何か…、コイツを"ヒト"に出来たらコイツも私も何かが変わるかもしれない。
…私はその時そう思った。