さて、こんな話知ってる?
世界の終わりから再び過去の世界へ還って来た男の話よ。
あん? もういい? なんですってぇ! ヒカリ! 真面目に聞くつもりあるの?!
あ、ちょっと、そこの店員! オーダーよ! モンブラン一個追加っ!
……………
とにかく、過去の世界から還って来た一人の男の話!
登場人物の名前は極秘事項だからその辺のを使うわよ!
そう言って彼女は話し始めた。
これは惣流・アスカ・ラングレーの語る18の物語……
シンジが気が付くと、そこは、赤い海に覆われた世界だった。
「―ここは? ――綾波? 」
シンジは側にレイがいる気配を感じて言った。
そんな彼の声に呼応するようにレイが何処からともなく声をかけた。
ここはサードインパクトの起きた世界。
ほとんど全ての人達が、LCLから還ることを望まなかった世界。
「アスカは? ミサトさんは? 他の皆はどこ? 何処なの? 」
シンジは赤い海を見回しながら呻いた。
彼はサードインパクトが起こっている最中、神に等しい存在となった。その時、確かに他者の存在を認めた。そしてここに還る事を望んだはずだった。なのに、ここには自分以外、誰もいなかった。
セカンドは戦って死んだわ。
他の死んだ人も、どうにもならない。
そして、生きていたほとんどの人がLCLから還る事を望まなかった。
「そんな! じゃあ、僕は何の為にここに居るの?! 」
シンジは叫んだ。
言い様の無い憤りがシンジの中で駆け巡る。
どうしようもなくなった世界。こんな世界、望んだはずじゃなかったのに。
私はあなたの願いを叶えられなかった。
サードインパクトはあなたに可能性を与えられるはずだったのに。
だから、今度こそ、あなたの願いを叶えてあげる。
――何を願うの?
レイは、いや、“リリス”は、サードインパクトが始まった時と同じようにシンジに問うた。
「時間を逆戻りさせたい。還りたいんだ、昔に。アスカやミサトさんやリツコさんや、何より父さんの居た世界。」
シンジはここで言葉を区切って、そして決意を込めて言った。
「変えたいんだ、世界を。」
――判ったわ。
そう、“リリス”が答えると同時に、シンジの体が融けるようにLCLに還った。
シンジの意識そのものであったはずの“魂”が深い闇の中に消えていくように光を失い、その場から消えた。
その瞬間、この世界から“人”と呼ばれたものは居なくなった。
シンジが気が付くと、そこは電車の中だった。
過去に還って来た?
シンジは回りをきょろきょろした。赤い海の覆われていたところとはまったく違う、普通の、電車の中の風景が目の前に広がっていた。シンジは自分の足下をふと見た。電車の椅子と自分の足の間に鞄が置かれていた。見覚えのある鞄、自分のだ。シンジは唐突に思い出した事があって、その中を漁ってみた。
……あった。
シンジが取り出したのは、葛城ミサト名義でシンジに届いた手紙だった。何が入っているのかは知っている。が、今の現状の確認の為だ。シンジは封筒の中の物を取り出した。
そこには何かの不要な書類に『来い』とだけ書いてあるくしゃくしゃの紙と、ミサトの挑発的に胸を強調した写真が入っていた。
これこそが、彼のこれからを大きく左右する出来事の発端そのものだ。
今日は僕が使徒と初めて戦った日なんだ。
シンジは険しい顔つきで手に持った手紙を見つめ続けた。
と、しばらくすると車内放送が流れた。
『次は、箱根湯本、箱根湯本。』
後もう少し……20分か15分くらいで着くかな?
「アスカ……綾波……ミサトさん。今度こそみんなを守るよ」
シンジは表情を引し締めた。
第3新東京市に轟音が鳴り響く。
人の形に似た巨大な未知なる物体が国連の執拗な攻撃をまるでものともしないで第3新東京市に向かって突き進む。
「なんで、なんでだよ?! 前に降りた駅より全然手前で電車が止まったじゃないか! 」
シンジは第3新東京市より少し離れた場所で止められてしまった電車から飛び降り、必死になって走っていた。
シンジの乗っていた電車は予定外の場所で停車した。車掌は車内放送で、
『第3新東京市が警戒態勢に入りましたので当電車は緊急に停車いたします。乗務員が近くのシェルターへ誘導いたしますので乗客の皆様は誘導に従ってください。』との放送をいれてきた。
あきらかに以前とは違う展開だ。しかも、もうとっくの昔にミサトが迎えにきてもおかしくない時刻なのに、今居る場所は彼女と出会う筈の場所から随分離れた所だ。
シンジは見当違いの場所に電車が止まってしまったことを憤慨しながら走った。
イレギュラーな出来事でも起こっているのか?
と、その時、シンジは凄まじい爆音と共に第3新東京市の方角から十字の光が立ち昇っているのを見た。
……ダメだ! 今からじゃ間に合わない!
シンジは失望に似たものを感じた。
それでもシンジは近くの高台まで必死になって走った。
……第3新東京市の様子が、使徒との攻防がよく見える高台……!
しかし、シンジは高台まで登りつめた時に自分の目に写った物を見て唖然とした。
「に…弐号機??アスカ?!」
第3新東京市のど真ん中で弐号機が仁王立ちをして立っているのを見た。
「あーっははははは! この無敵のアスカ様にかかれば使徒なんてイチコロよー!!」
アスカは弐号機から先程の爆音にも似た馬鹿でかい声を第3新東京市やその辺一帯に鳴り響かせていた。
どうやら先程の爆破はアスカが使徒を弐号機で倒したものだったらしい。
あ、あれ? 何で? 何で第3使徒戦に弐号機が、アスカがいるんだよ?!
アスカはまだドイツにいるハズだろう????
なんか、おかしいよ。この世界おかしいよ~~!!!!!!!!!!
シンジは仁王立ちをして高笑いを響かせている弐号機(と、アスカ)を呆然と見ていた。
どうやら、イレギュラーは本当に起きていたらしい。
「ごっめーん、シンジ君。アスカと弐号機の出撃準備で迎えに行く時間なくなっちゃっててねー」
開口一番、シンジが脱力しつつもやっとの思いでネルフ本部にヨタヨタたどり着いた時、ミサトは言った。
「でも、結構離れた場所で電車が止まるように警報鳴らしておいたから、シンジ君、怪我とか負わなかったわよね? 」
一応、ミサトは事情を説明したが、シンジは何も言えずに立ったままでいた。
そんな彼の様子はお構いなしにミサトは言葉を続ける。
「あ、そうそう、紹介するわ。彼女、惣流・アスカ・ラングレーよ。エヴァ弐号機専属パイロット。」
側で両手を腰に当てながら立っている少女・アスカを指してミサトは言った。
「よろしく! サードチルドレン! 」
アスカは大げさに腕を振り上げ、手を差し出して握手を求めた。
差し出された手を見つめたまま、シンジは渋い顔をしながら嫌々アスカの手を握った。
「何よ、しけた顔しちゃって! だーいじょーぶよ!
アンタもエヴァのパイロットに選抜されたようだけどさ、アンタ、ただの“予備”だから。
心配しなくても、使徒が攻めて来てもこの無敵のアスカ様が弐号機でやっつけてあげるわよっっっ! 」
そう言って、アスカはシンジにでこピンをした。
一方、出端をくじかれたシンジはただ、カクカクと頭を縦に振るしかなかった。
でぇ~、アスカは次から次へと現れる使徒を見事にやっつけて、人類は平和になりました~っと。
ま、アスカが居れば、世界はすべからく平和でありつづるって事よ。
むしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃ……
「あの……アスカ? 」
私は碇君が過去に還って来た話ではなかったのかと聞こうとしたのだけど、アスカは注文したモンブランを食べるのに夢中でまるで聞いてはいなかった。
END