そうそう、今の世界とよく似てるけど違う世界って話、知ってる?
はぁ? 私の話の全部がそうだって?
何よ! アンタ! 私の話に文句があるってぇの?!
今の発言失礼ね! お詫びにヒカリの奢りでケーキもう一個追加よ!
とにかく、似た世界だけど別世界。平行世界とか、異次元世界とか、パラレルワールドっていったヤツね。
その世界に行って体験してきた男が語る話よ。
そこに登場する人物はパラレルだけど平凡すぎる名前ばかりだから、とりあえず、その辺のヤツの名前を使うわよ。
そう言って彼女は私に話をし始めた。
これは私こと、洞木ヒカリの友人の惣流・アスカ・ラングレーの語る18の物語……
けだるい朝、いつも通りの朝だ。
嗚呼、起きたくない。だって、朝起きたらまず朝食の用意をしなくちゃいけないんだ。
そう、僕は今住んでいるこの家の家事全般をやらされてるんだ。
理由は、同居人二人が何にもしないから。
いや、しないことはないんだけどね、同居人の一人のミサトさんは殺人カレーを作るからはっきり言って、食事なんて怖くて作らせられない。
アスカなんて加持……違った、家事なんかやったことないし、「私やらなーい」とか言ってるし。
一度アスカに家事を手伝ってもらったら十年先まで恩に着せるように威張りくさって、手に負えないよ。
なんであんな人たちと一緒に僕は暮らしてるんだろう?
僕はこんなイヤな生活をしているわけだけど、さらに言うと僕は警報が鳴ったら一番でネルフという国連直下のよくわからない怪しげな軍事組織みたいな所に直行しなくちゃいけないんだ。
なんでかって? 僕はエヴァンゲリオンっていう、巨大なロボットみたいなもの(リツコさん曰く、人造人間らしい)に乗って人類の平和を守らなくちゃいけないんだ。
え? 光栄な任務をおおせつかって何が不満かって?
まったく、そういうのを光栄なんて思うのはケンスケみたいなオタクだけだよ。アレに乗るのってかなり命がけなんだよ?
僕、何度も死に掛けて、イヤな思いをしたんだ。
正直、もう乗りたくない。
というか、この世界から逃げ出したいんだ。
……そう。あなたのその願い、かなえてあげる。
え? 今、どこからか、変な声が聞こえてきた。
誰かに似てる……
えっと、そうだ! 綾波! 綾波の声だ!
って、なんで僕の部屋から綾波の声が聞こえてくるんだ?
……あなたが、この世界から逃げ出したいと願ったから。
え? え? どこ? どこ?? どこから話してるんだ? 綾波?!?!
「ここよ。」
「うわぁっ! 」
そう言って綾波が出てきたのは、僕の部屋にある机の引き出しからだった。
時々綾波はとんでもないボケや非常識な事を言ったりしたりしていたけど、ここまで非常識な事をされたのは初めてだ。
「なんで綾波が僕の部屋の机の引き出しから出て来るんだよ?! 」
「ちがうわ。私は綾波じゃない。私は綾波エモン。」
綾波はこれ以上見たこともないようなボケをかまして言った。
「どうでもいいけどここから出て行ってくれない? 」
「ダメ、碇君が呼んだから。だからダメ。」
よくわからないけど綾波はきっぱりと拒絶の言葉を言った。
「とにかく、ここから出て行ってよ。お願いだよ! 」
僕は懇願するように言った。はっきり言って、こんな登場されて居座られても困る。
でも、綾波はそんなことはまったく聞いちゃいないと言わんばかりに言った。
「碇君はこの世界から逃げ出したい。その願いをかなえてあげる。」
そう言って、何故だかよくわからないけど綾波はA.T.フィールドを張ったんだ。
なんで綾波がA.T.フィールドなんかが張れるんだ? 前々から人間じゃないと思ってたけどやっぱりそうなの?
そうこうしている内に、僕の足元には黒い円形のようなものが広がった。
どこかで見たことある……
っていうか、ディラックの海?!
「これは、“どこでもディラックの海”これで碇君は別の空間の、別の宇宙の、別の世界にいけるわ。」
なんて綾波は言った。
いや、どこにもいけなくてもいいからいいよ。と、叫びたかったけど、そう言うより先に、僕は汲み上げ式のトイレの中に落ちるようにディラックの海に落ちていった。
僕が気がつくといつもと同じ部屋のベッドの上に寝ていた。
――夢だったのかな?
そう思って僕が起き上がろうとしたら……
「シンちゃーん! いつまで寝てるの!? 起きてらっしゃーい! 」
と、ミサトさんの叫ぶ声が聞こえた。
僕は慌てて起き上がって、急いで着換えて部屋を出た。
台所までやってくると、何故かテーブルの上にはちゃんと朝食が作って置いてあった。
テーブルの椅子には、何故か加持さんとミサトさんが座っていた。
「あ、あれ? こんな朝早くに加持さん、どうしたんですか? 」
僕が加持さんに向かってそう言うとミサトさんは何故か眉間に深い縦シワを寄せて僕をにらみつけた。
「シンジ、パパに向かって“加持”なんて他人の名前を言うもんじゃありません! 」
と、言った。
パパぁ?!
僕は一瞬なんのことだかよくわからなかった。
大体なんでミサトさんは僕の名前を呼び捨てなんだ? いつもは『シンジ君』とか『シンちゃん』とか言うのに。
しかし、ミサトさんはそんな僕のことなどお構いなしで淡々とした口調で言った。
「シンジ、学校の成績はどうなの? 」
まるで、成績の悪い子をしかりつける母親のようだ。 そう思いながらも、僕は極端にいい成績でもないけど悪い成績を取ったことも無かったから、何気なしに答えた。
「ええ、まぁ、普通ですよ。」
すると、ミサトさんのこめかみにものすごい血管が浮き上がらせ、すさまじい勢いで叫んだ。
「ウソおっしゃい! ママはちゃんと知ってるのよ! ごらんなさい、あなたの隠したテストの答案用紙よ! 」
そう言って、どこから取り出したのか、テストの答案用紙らしきものをバラバラ~っと、テーブルの上にぶちまけた。
その答案用紙には、“2年A組 碇シンジ”と僕の筆跡で書かれた答案用紙があり、赤い字で書かれた採点の結果が……
0点だった。
なんでこんな点が取れるんだ?! っていうか、これ、僕のテストの答案なの?!
と、言いたくなったけど、ミサトさんはこめかみに血管を浮かせたまま僕に向かって叫んだ。
「隠してもすぐバレるんですよ?!大体シンジ、あなたは………
………中略…………
なのですよ!? 聞いてるの!? シンジ!?」
延々と僕に説教を言ったミサトさんは話をほとんど聞いてない僕にようやく気がついたのか、そう言った。
「だって、ミサトさん。さすがの僕もここまで悪いテスト結果を出したり……」
そう言ったら、ミサトさんはこれでもかというほどすさまじい怒りの形相で僕に怒鳴りつけた。
「言い訳するんじゃありません! それからママのことを名前で呼ぶんじゃありません!
大体シンジ、あなたという子は…」
その後、ほとんどエンドレス状態でミサトさんの説教を聞かされた。
ようやく解放されたのは僕が学校に行く時間になってからだった。
学校への道のりは今までと変った様子は無かった。
僕は学校までの道の途中で考えた。
綾波はホンキで僕を別の世界へ放り込んだんだ。でも、この世界ってあんまりいい感じは……
そう考えている間に僕の後頭部に衝撃が走った。
「い……痛い! 」
何かと思って後ろを振り向くと、ケンスケとトウジがいた。
そして拳を振り上げたままの状態でいるあたり、どうやら僕をトウジが殴ったようだった。
「なんだよ、トウジ! いきなり何するんだよ!? 」
「なんだとぉ~~? シンジのクセに生意気だぞぉ~?! 」
そう言ってもう一発、僕の頭を殴った。
「痛い、痛いよ!! トウジ! なんでこんなことするんだよ?! 」
「生意気だからだ!」
まったく支離滅裂で意味の通じないことをトウジは言った。
前にも殴られた事はあったけどこんなに理不尽なのは初めてだ。
そしてそんなトウジに殴られてる僕に向かってさっきからイヤな薄ら笑いを浮かべていたケンスケがイヤミをタップリ篭めた口調で言った。
「お前、ヒカリちゃんの事が好きだろー? 」
ヒカリちゃん?? ヒカリ?? 委員長????
よく分からないけど、ケンスケは僕が委員長のことが好きだと誤解をしているようだった。
「違うよ。別に好きってわけじゃあ……」
「やっぱりシンジのクセに生意気だぞぉ~! 」
「生意気だぞぉ~! 」
古典的なガキ大将と、その子分よろしくな感じでトウジとケンスケはハモるようにそういうと、そのまま僕をいたぶった。
結局僕は、殴る、蹴るの暴行を受けてボコボコになってようやく学校についた。
よく分からない理不尽な暴力を受けた僕は、ようやくついた学校で、なんとか授業もこなして、
(ちなみに委員長はカヲル君が好きらしい。ずっと、「渚さん」とか言って仲良く話していたし。)
ようやく昼の時間になった。どうやらこの世界では給食があるらしく、今日のメニューはカレーらしい。
配膳係を言いつけられた僕は慣れない手つきでみんなの昼食を大きな鍋からついでいった。
そして最後に自分の分を注ごうとしたら……
「これもーらい♪」
と言って、誰だかわからない人が僕の分のカレーを横から取っていってしまった。
「あ、それ、僕の……」
その人物に、返してもらおうと、横を振り向いて手を伸ばすとそこには……
アスカがいた。
「あ…アスカ?! 」
「んっふっふっふ~♪ アンタのカレーは頂いたわ♪」
そう言って早速僕のカレーに自分のスプーンを突っ込んでその場で食べ始めた。
「何するんだよ!! 自分の分を食べればいいじゃないか! 」
そう僕は抗議したけど、アスカはまるでそれが当然と言わんばかりに僕に向かって宣言した。
「何言ってるのよ? アンタのモノは私のモノ。私のモノは私のモノよ! 」
理不尽だ、理不尽すぎるよ! その理屈!!
僕はもう泣きたくなった。
もうイヤだ。こんな世界イヤだよ!!
そう心の中で叫んだら、突然、教室の戸が開いて誰かが入ってきた。
よく見たら……綾波だった。
「あ…綾波ぃ~!」
僕はこんな世界に飛ばした綾波に抗議をしようと詰め寄った。
「もういいの? 」
「もういいよ! こんな世界!! 」
「そう、よかったわね。」
何がよかったのかさっぱり分からなかったけど、そう綾波が言うと、僕の足元に黒い影が出来て……
僕は再び、汲み上げ式のトイレの中に落ちるようにディラックの海に落ちていった。
でぇ、シンジは無事に元の世界に戻れました~~っと。
大体さぁ、このシンジはこの世界のアスカから逃げ回ってる上に、「寝転がってないでたまには家事をやってよ」とか、「僕の物は自分の物だって思ってるでしょ? 」とか、ボソボソ~ってウンチク垂れるから、こんなバチが当たるのよ!
何よ!! まるで私……じゃない、アスカがジャイアニズムを撒き散らしてるみたいに言ってさ!
ったく……
がつがつがつがつがつがつがつがつがつ……
「………」
アスカは追加注文をしたミルフィーユを勢いよく食べ始めた。
ジャイアニズムを撒き散らしているという点において、私はこの時、碇君と同意見だと一瞬思ったけど、それを言うとアスカが理不尽に怒りだしそうだったので黙っておくことにした。
END