さて、別世界の別の物語もいいけど、一人の男が二人の少女に愛される話なんかどうよ?
あん?またどうせさっきと似たり寄ったりの話でしょ? ですって?!
アンタ、失礼ねっ! 今ので私、ものすっっっっごく傷ついたわよ!

あ、ちょっと店員さん。トロピカルジュースよっ!

……まぁとにかく、一人の少年が二人の少女のからの求愛の狭間に立たされる話。
登場人物はまぁ、その辺のを使うわ。その方が判りやすいでしょ?

そう言って彼女はいつもの調子で話し始めた。
これは私、洞木ヒカリの友人、惣流・アスカ・ラングレーの語る、18の物語……

小悪魔アスカの18の物語
- Love Asuka or Rei? Shinji? -

 碇シンジは悩んでいた。
 彼には懇意にしている女性が二人ほど居た。
 いや、女性というよりも少女だ。彼女らはまだ高校生、女性と言うには早過ぎる。
 その内の一人は、惣流・アスカ・ラングレー。
 ドイツからの帰国子女で、日本人とドイツ人とのクォーター。容姿は赤みを帯びた金髪と蒼眼、白い肌と均整の取れた身体つき、そしてややアジア系にやや近い欧米系の端整な顔。容姿的に日本の男子諸君にはやや近寄り難い印象もしたが、流暢な日本語を使い、表情をくるくると変える様子は周りの人達に馴染みやすく、あまりお近付きになれないと思っていた男子生徒からも、かなりの人気を得ていた。何よりもドイツでは14歳で大学まで卒業した優秀な少女だ。まさに理想的な女性の道を行くアスカに、皆、憧れを抱かずには居られない。彼女の周りでは男子生徒の取り巻きが常に絶えなかった。
 もう一人の少女は、綾波レイ。
 シンジの母方の従妹で、アルビノのような白い肌と赤い目、清楚な顔立ちと痩身で優美で且つ、無駄の無い洗練尽くされた身のこなしと、無口であまり表情を見せない様子が他人から近寄り難い印象を与えているのにも関わらず、それが逆に神秘的な雰囲気を醸し出し、男子生徒達から密やかな人気を得ていた。ミステリアスで神々しさすら感じる彼女の颯爽とした姿に、皆振り向いて、熱い憧れの眼差しを向ける。
 いずれもまったくタイプの異なる少女達だが、シンジとは同じ高校に通っていて、校内ではかなりの人気を誇っていた。
 かく言うシンジの方はというと、この二人に比べれば平凡、凡庸、凡常、有り触れてる、人並み、凡人etc.等の言葉が似合いすぎる程似合う少年だった。特に取り柄と言えるものも無く、毒にもならないが薬にもならない無害な生き物、という感じで、学校の催し物の時にとりあえず穴埋め人員だとか、クラスに居ても気が付かないとか、そんな感じだった。
 そんなシンジが何を悩んでいるかと言うと…ずばり、学校で双璧を成すこの二人の美少女の事についてだった。

 彼、ことシンジは凡庸と言われ続けていたが、実は目立たない事こそ我が身を守る最も有効な手段と考え、地味に目立たないよう、必死になって振舞ってきた。そんな彼に振って沸いた幸福…いや、不幸か?惣流・アスカ・ラングレーがドイツから日本へ帰国しシンジと同じ学校へ。従妹であるレイがシンジの近所へ引越してきたのだ。
 校内で人気を二分していると言ってもいい綾波レイとシンジは従兄妹同士。無口な所が取っ付きにくいが、なかなかの美少女っぷりに、シンジはなんだかんだ言って親戚だという事を理由に一緒に居た。しかし、ほぼ同時に近所に引っ越してきたアスカがシンジに対し、頻繁に絡み始めたのだ。シンジにとってのアスカはレイと違ってまったくの赤の他人。絡まれる筋合いは無いはずなのだが、何故か絡まれる。しかも、レイと一緒に居る時に限ってアスカは必ずやって来て、レイに一言嫌味を言ってから延々とシンジに突っかかる。どうしてアスカがシンジに絡んでくるのか、結局のところ彼自身にはまったく判らず終いだった。
 とにかくシンジはレイと一緒に居る、その後にアスカに絡まれる、がお約束の日々となった。
 シンジにとってはレイと一緒に居るというだけでアスカに突っかかってこられるのは一応、そう一応、ハタ迷惑だったのだが……それよりも深刻な問題は、周りの男子生徒諸君に妬み全開の視線を浴びさせられる事。美少女二人に囲まれて(いるようにしか見えない)シンジは端から見ればウハウハな状況。そんな彼に、罵声の一つでも浴びせてやりたいのが男子生徒諸君の心情のようだったのだが、如何せん、彼女らはそんな男子諸君の事などお構いなしに、(レイは単純に気が付いてすらいなかったかもしれないが)シンジの周りに居る。
 シンジも、レイと一緒に居なければアスカに絡まれないで済むのだが、レイと一緒に居る事は止めないわ、それによってアスカに絡まれても苦笑いするだけでどうこうしようとしないわ、結局のところ、二人の少女の間に居る事はまんざらでも無い様子だった。
 そうしてシンジは二人の少女に囲まれながら、周りからの冷たい視線を浴びる生活が続いた。
 しかし、そんな彼と少女達との関係にも変化が訪れる。

「あんたバカァ?! 」

 学校帰りの道すがら、耳を劈くようなけたたましい声が響く。学校で人気を誇る魅惑の帰国子女、惣流・アスカ・ラングレーの声だ。シンジは耳をふさいで彼女の声から自分の鼓膜を守る。

「あんた、人の話、聞く耳持ってるのぉっ!? 」

 聞く耳も何も、こんな声を間近で出されていては耳へのダメージの方が甚大で、聞きたくとも聞けない。

「私の隣を歩く時くらい、その猫背止めなさいって言ってんのよ、聞こえないのっ!? 」

 再び大声を張り上げる。何度もこんな声を出されてシンジは少々げんなりとなっている。
 そんなシンジに気が付いて無いのか、アスカが再び大声を張り上げて、シンジを叱咤する。

「私が背筋伸ばして歩いてるのに、あんたがそんなんじゃあ釣合い取れないでしょうが!
 ああ、もう! 何でそう前かがみになるのよっ! もっとしっかり歩きなさいよね! 」

 そんな事を言われても…。シンジは言いかけたが、口をつぐんだ。
 アスカは学校の男子生徒にやたらと人気がある。黙って立っていればシンジとて他の男子生徒同様に、自分には目もくれないだろうと憧れ半分諦め半分の目で見ているかもしれないが、アスカは何故だかシンジと一緒に居る。しかも、今日は先生からの用事を言い渡されてレイが不在なのにも関わらずだ。
 ただ、彼女と一緒に居ると、僻んだ冷たい視線は浴びるわ、やっかみも受けるわで、人生安全な道筋を精一杯たどって生きてきたシンジにとっては少々馴染めない状況だった。普段なら綾波レイが一緒に居るのでそういうのが感じにくいのだが、彼女と二人きりでというのは冷たい視線をイヤと言うほど感じ取れる。その為か、彼女と一緒に歩くのはなるべく目立たないように、引っ付いて歩かないように、と、どうしてもなる。そして、気をつけまくっている内に、彼の歩く姿勢は猫背のように俯き加減に前かがみになっていって……

「もう! 何でそう、縮こまったような歩き方すんのよ?! 私と一緒に歩くのってそんなに一大事なワケ?! 」

 ……なんてアスカに言われる始末。
 (周りの視線が痛いんだよっ! アスカっ! )
 心の中で叫んだところで彼女に聞こえるはずも無い。彼らの周りでは帰宅途中の男子生徒からシンジへの冷ややかな視線が送られている。早く、男子生徒の群れが居ない道に出るか、分かれ道で彼女とさよならするかしないと、シンジは居た堪れない。
 猫背でヨタヨタと妙に周りを気にして歩くシンジを見て、アスカがため息を付く。

「何であんたはいつもそうなのよ……」

 小声でぼそりと呟くアスカに、シンジは一瞬立ち止まり、顔を上げる。しかし、アスカはずんずんと先に行ってしまっていた。慌ててシンジは後を追いかける。

 住宅地の路地に入った所で、ようやくシンジはアスカに追いついた。
 というよりも、アスカが道の真ん中に立ち止まってシンジを待っていた。
 神妙そうな顔をして待っているアスカ。いつも強気で明るく振舞っている彼女がそんな顔をするのは初めてだ。

「……あの、アスカ。どうしたの? 」

 シンジは声を掛けるが、アスカはただじっとシンジの顔を見つめていた。
 いつもと違う態度を怪訝に思いながらもシンジは再び彼女に声を掛けようとした。

「あの、アス……」

「あんた、さ……」

 再び声を掛けようとしたシンジに、まるでそれを遮るようにアスカが声を出した。
 一瞬、どうしたのか判らず、シンジは戸惑ったが、直ぐに気を取り直して声を掛ける。

「な、何……? 」

「あんたってさ、あの子と……付き合ってるわけ? 」

 は? あの子? 付き合う?
 唐突の質問に、シンジは一瞬誰の事を言っているのか、何の事を言っているのか判らなかった。

「えっと、あの子って…誰? 」

 素っ頓狂な声で間抜けな質問をするシンジに、アスカが苛々したような顔をして叫ぶ。

「だああああもう! 綾波レイに決まってるでしょうがっ! あんた、そんな事もわかんないのっ!? 」

「え?! 綾波?! 何で綾波?!?! 」

 再び間抜けな声を上げるシンジ。
 そんな彼の様子に、アスカの苛々とした表情が、怒りの形相に変わる。

「何でもへったくれも無いわよっっ! あんたは綾波レイと付き合ってんの?! どうなのっ?! 」

「つ、付き合ってないっ! ないですっ! 」

 アスカのものすごい剣幕に、シンジは慌てて答える。
 それを聞いてアスカが再度問う。

「じゃあ他の女は? 」

「い、い、居ないけど……? 」

 かなり圧されながら答えたシンジを見て、アスカは手を顎に当て少し俯き加減に暫くの間考えるような素振りを見せたが、直ぐに顔を上げ、シンジに向かって言った。

「じゃ、私と付き合ってもいいわよね」

「は? 」

「だから、あんた誰とも付き合って無いんでしょ? 私と付き合ってもいいわよね? 」

「えっ……と? 僕とアスカが付き合う……? 」

 何の事だか判らずに首を傾げながら間抜けな声を出すシンジに、アスカはものすごっっっく強い口調で問い返した。

「付き合うわよねっ?! 」

「はいっ!!! 」

 半ば、強制的に返事をさせられるシンジ。
 彼の返答を聞いたアスカは満足げに笑みを浮かべ、うんうんと顔を頷かせる。

「あんたと私は付き合うっと! じゃ、そういう事でぇ~。バイバーイ♪」

 そう言い放ち、アスカは足早に自分の家の方角へと走って行った。
 一人道の真ん中に取り残されたシンジは、今だ事の成り行きを理解しきれずに呆然としながら暫く突っ立っていた。

「そっかぁ。アスカと僕は付き合うのかぁ。って……」

 そんな独り言をぼそりと呟いた。しかし、その時になってハッと気が付いた。
 今、アスカに"付き合ってくれ"宣言をされたんじゃないのか?
 あの、魅惑の帰国子女、金髪蒼眼にしてスタイル抜群、学校のアイドルのアスカに。
 平凡を地で行くと言われ、自分でもそう思い、そう振舞ってきたシンジが。

 シンジは事の重大さに、わたわたと慌てふためき始める。

「うわあああああ! アスカと付き合う事になっちゃったああああ~~!!!!! 」

 シンジは今叫んでしまった事に気づき、慌てて自分の口元を塞ぐ。
 あのアスカと自分が付き合う事になったのだ。安易に大声張り上げて周りに聞こえでもしたら大変だ。
 シンジは口を塞いだまま周りを注意深く見回し、誰も居ない事を確認すると手を離し、フーっと深く深呼吸をした。

 アスカに気に入られているなんて思いもよらなかったが、まさか自分と付き合いたいだなんて。
 もしかしたらレイと一緒に居るところにいつも絡んできたのは嫉妬だからか?
 などと一丁前に考えたりする。
 彼は自他共に認める少女が自分に付き合いたいと言って来た事で俄かに自惚れのような自信が芽生えたようだ。

 とにかく、こみ上げてくる喜びは抑えきれない。思わず声を上げたくなってしまう。

「……やった……やった……やったぁぁ~~! 」

 そうしてシンジは走り出した。興奮のあまり、わけもわからずあちこち走って歩いて走って歩いて、気が付けば彼はご近所を四周ぐらい駆け巡ってしまった。

 意味も無くご近所中を徘徊したシンジだが、気の済むまでうろつき回ったせいか、ようやく落ち着きを取り戻し、家まで帰ってきた。
 家の表の玄関先から玄関の方へ向かおうとした所に、家の前で俯きながら一人たたずんでいる少女に気が付いた。

「あ、綾波……? 」

「碇君……」

 少女は少年の帰ってきた気配を感じ取ったのか、ゆっくりと顔を上げた。
 しかし、直ぐに顔を俯かせて暫く押し黙ったまま、じっとその場に立ち尽くす。
 シンジはそんな彼女の様子に戸惑った。彼女に何があったのか判らないし、何て声を掛けていいのかも判らない。暫く二人の間に沈黙が続く。

「今日……」

 レイが口を開いた。

「先に帰っていってしまったのね……」

 その言葉に、シンジの胸に痛みのようなものが走った。
 アスカが常に付きまとっていたので忘れていたが、そういえば彼女とは学校から帰宅する時はいつも一緒に帰っていた。今日は先生になにやら頼まれごとをされていたようだったので、うっかり彼女を置いて先に帰って行ってしまった。
 レイに対し、酷く悪い事をしてしまったような罪悪感と後悔がシンジの胸に過ぎる。

「ご、ごめん。今日は……」

「……学校の窓から……」

 シンジの言葉を遮るように、レイが言葉を紡ぐ。

「あの子と一緒に居る所を見たわ……」

 あの子? あの子って……?
 と、シンジはアスカの時とまったく同じように迷う。
 しかし、そんな迷いを打ち消すようにレイは淡々と語る。

「あの子……金髪の……」

 そこでシンジはギクリとする。そう、彼女はシンジがアスカと一緒に帰る所を見たのだ。
 シンジの胸に、先ほどよりも強い痛みが走る。
 自分はレイを置いて行って、そして…。
 先ほどまでの浮かれようが、波が引いていくように冷めていく。
 レイが切なげな目でシンジを見る。そんな彼女の視線が今のシンジには痛々しい。

「碇君……」

 レイが声を掛けた。シンジが彼女の顔を見る。

「……私の事、好き?」

 突然の質問。シンジは虚を衝かれたように一瞬、唖然とする。

「す、好き……って?」

 シンジは問い返すが、レイは答えない。
 ひたすら答えを待つようにシンジの目をじっと見つめたまま黙って立っている。
 レイの言葉が激しく自分の心を揺れ動かす。
 続く沈黙の中でシンジはレイの事を考え続けた。
 確かに、レイの事は好きだ。でも、今しがたアスカとどんな会話を交わした?
 シンジは考える。こんな切なげな目をするレイに、本当はアスカと付き合う事になったなどと言えようか?
 レイが好きなこの気持ちは本当の気持ちであり、まごころだ。

「す……好き……だよ」

 シンジは告白した。
 それを聞いたレイは、それまで見たことも無いような、優しい笑みを浮かべた。

「……ありがとう」

 そう言って、レイはシンジの手をそっと握った。
 シンジはドキマギしたが、自分もレイの手をそっと握り返した。
 特にこれといった会話もなく、ただ手を握り合ったまま互いの顔をじっと見つめていた。
 そうして気の済むまで互いの顔を見つめあった後、二人は自分の帰るべき家へと戻って行った。

 夜半過ぎ、シンジは自室のベッドの上に寝転びながら、今日一日にあった出来事を思い返していた。
 平凡なシンジにとって、ありえない事の連続だった。
 学校で絶大なる人気を誇るアスカがシンジに付き合いを申し出て、皆が熱い眼差しを送るレイに自分が告白したのだ。
 ふと、そこでシンジはとある事に気付く。

 今、アスカとレイの二人に言い寄られ、美少女二人の狭間に自分は居るんではないか?
 どっち付かずのこの状況、本当にこのままでいいのか?

 そう、今の状況はアスカとレイ、どちらも選んでいない状況だ。二人の少女からの告白に揺れ動く自分。
 しかしこの状況、悪く言えば二股状態だ。

 心理的なウェイトで行くと今の所レイの方が一歩リードという感じか?
 レイは元々、シンジにとってその美しい容姿や神秘的な雰囲気に憧れを抱いて止まない少女だった。まるで触れてはいけないような、そんな風にすら感じていた。そんな彼女に憧れていたからこそ、自分は常にレイと一緒に居ようとしていたのではないのか?
 そうだ。元々レイの方が先に好きだった。なら、アスカを差し置いてレイを…。
 いや待て、アスカも捨てがたい。いや、捨てるというのは失礼だ。むしろ、棚から牡丹餅も良い所だ。ああいった子が自分に振り向くなんて事、万に一つの奇跡でも起こらない限り有り得ない。いや、これこそが万に一つの奇跡ではないのか?アスカみたいな並以上の子なんて、滅多にお目にかかれない。成績の優秀さもさることながら、あのスタイルの良さ。学校の中では一番じゃないのか?大体レイは親戚…そう、従妹だ。両親や親戚の反対意見も多いだろうし、付き合うならまったく他人であるアスカの方が妥当だろう。
 いや、待て。そもそも自分がこんなにモテるなんて事、あるのか?
 もしかしたら今後、こういう事があるかもしれないが、どちらかと言うと無い可能性の方が高い。
 そもそも昨日の今日だ。今すぐ結論を出す必要も無いんじゃないのか?

 シンジは二人の少女の容姿、性格、能力、現在の立場や状況における優位な点や不利な点、それによって被る利害や損得などを延々と勘定し続け、その思考の結果、"どちらも選ばない"という結論に達した。

 シンジはその後一週間、レイと一緒に登下校、アスカと鉢合わせたら(というより、むしろ待ち伏せている)絡まれる…という、表向き普段と変わらないような態度で二人に接した。
 アスカとレイは自分こそシンジと付き合っていると思っている為か、彼の側にいつもと変わらない様子で他の女が付きまとうのを見て、あからさまに嫌悪と嫉妬丸出しの態度を表した。
 シンジはそんなアスカやレイに対して二人っきりになった時などに、「アスカは僕が嫌がってるのに絡んでくるんだよね~」だとか「ほら、綾波って人付き合い苦手だからさ」などと言ってアフターフォローをし、何とか二人に対して"自分は付き合っている"という意識の刷り込みと、"交際している"という体裁の保持に努めた。

 そうして訪れたバレンタイン・デー。
 アスカもレイも当然ながらシンジに対し、義理でも何でもない直球本命の手作りチョコを渡した。
 アスカは料理が不慣れだったのか、少し形の歪んだチョコだった。湯銭し過ぎたのか、少しスカスカとして焦げた味がしたが、アスカがぶっきらぼうに「本当の作り方してないんだけどね。作り方を知らないってわけじゃないんだけど、ちょっと苦手なだけ…」などと言ったのが妙に可愛らしく、シンジは歪んだ形をしたチョコに妙な愛着を覚えてしまった。
 一方レイはまったく型通りの手作りチョコを作ってシンジに手渡した。味も市販の物と差異が無い上に、板チョコがそのまま少し形を変えただけの味気ないものであったが、レイが沈んだ顔をして「私、チョコレートってどうすればいいのか判らない」と言ったのがシンジの心の琴線に触れたのか、ついうっかり「笑えばいいと思うよ」などとまったく前後の意味の通じないような言葉を言ってしまったりした。

 バレンタイン・デーに続くホワイト・デー。その前日。
 二人からの本命チョコのお返しの為に、シンジは学校が終わった後に単独デパートへと買いに出かけた。
 アスカもレイも(当然個別で)シンジが買いに出かけるなら自分もついて行きたいと願ったが、シンジは、
「ごめん。やっぱりお返しは渡すまでは見せられないよ」
 などとご丁重に二人に謝辞を述べた。
 本当は"二人のお返しを買って来る"だったのだが、そんな事をストレートに言うほどシンジも馬鹿ではない。

 シンジはデパートのホワイト・デー・フェア特設コーナーでイソイソとプレゼント購入。
 当然、購入したのは二つ。一つはアスカへ。"Love Asuka"などと書いてあるのがまたそれらしい。レイに対しては"愛しのレイへ"などと日本語表記しているところがまた、なんとも言えない。
 そうして二人へのプレゼントをデパートの紙袋にぶら下げ、シンジは意気揚々と帰宅していった。

 学校が終わった後でデパートへ行った為か、すっかり日が暮れてしまった。
 自宅まで戻ってきたシンジだが、暗がりの中、自分の家の前に二人の少女の影があるのに気が付いた。
 一人は、アスカ。なにやらもすごく不機嫌そうな顔をしている。
 一人はレイ。いつも以上の能面のような表情をしている。
 二人とも、「なんでこの女がここに居るのよっ?!」というオーラ丸出しだ。

 シンジが帰宅してきた事に気が付いたのか、彼女達はシンジの方へと一斉に顔を向けた。
 二人の少女の姿を見て、シンジは体中から一気に汗を吹き出す。

「あ、アスカ……綾波……その、何でここに? 」

 シンジはそう言いながら、何とでも無いような表情を必死で作ろうとする。

「あんたの事、待ってたのよ」
「碇君の事を、待っていたの」

 ほぼ同時に言う二人。アスカの方は不審と怒りが見え隠れし、レイの方は軽蔑と冷淡さが滲み出ている。

「そ、そうなんだ……」

 シンジの額を汗が伝って顎まで流れていく。シンジは必死になって言い訳を考える。しかし、思考は停止寸前。まとまるものもまとまらない。この二人がこういう形で鉢合わせになるという事まで予測しなかったのが悪いのだが、シンジは目の前の事で一杯になっていてそこまでの事まで考えていなかった。
 いやその前に、二人同時に付き合おうなんていう考えそのものからして終わっていたのかもしれない。

「でぇ~、何で、この女がここに居るの? 」
「それで、何故、この子がここに居るの? 」

 再び同時に発言する二人。
 シンジの額から大量の汗が流れ落ちる。
 なんとか彼女らの誤解を解かねば…。
 などとこの期に及んで思い、彼女らの側へと歩み寄ろうとする。
 焦りと緊張のあまり、おぼつかない足取りでよたよたと二人の前までやってきたのだが……

カツン、ステン!!

 シンジは道の段差に足を引っ掛け、転倒。そのまま手持ちの鞄と紙袋の中身をぶちまけてしまった。そして……

「何よ、コレ? 」
「なに?これ? 」

 二人の少女は、紙袋の中から自分達の足元に転がり込んできた物を手に取って見る。
 アスカは"愛しのレイへ"と書かれたものを。
 レイは"Love Asuka"と書かれたものを。

「へぇ。そういう事だったのか……」
「そう。そういう事だったのね……」

 ハモる声。滝のように流れるシンジの汗。続く沈黙。
 少女達は、ホワイト・デーのお返しを握り締めながら、転がっているシンジを見下ろす。

「へぇ……二股してたんだ」
「そう……浮気してたのね」

「ち、違うんだ!!! これは……」

 動かぬ証拠を握られているのにも関わらず、シンジが弁明を試みる。しかし、既に運命は決していた。

「殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる~~」
「浮気は要らない。浮気は用済み。浮気は要らない。浮気は用済み。浮気は~~~~」

 目を剥いて、鬼のような形相で、殺気を撒き散らしながら呪詛を唱えるアスカ。
 口の端を歪めたイヤな笑みを浮かべ、氷のような冷気を放ち、念仏のように唱えるレイ。

 シンジはこの後、二人の少女により撲殺されたのは言うまでも無い。
 "二兎を追う者は一兎をも得ず"。
 この言葉を忘れ果て、欲張りな事を考えてしまった己が招いた結果だった。

でぇ、結局シンジは二人から同時に捨てられたぁっと。
ほんっっとう、バッカよねぇ~~。そんな美少女二人から同時に好かれるなんて、あるわけないじゃん!
って言うかさ、二股してるって時点で駄目ね。捨てられるの、決定。

あーでも、この話ってさ! ほんっっっとう、ムカツクわよねぇ~~~!!!

ずびびびびびびびびびびび~~~~

 そう、一気にまくし立てるだけまくし立ててから、アスカはトロピカルジュースを飲み干した。
 言いたい気持ちは判らなくも無いけど、何だか今日のアスカの鬼気迫る話し方に、私は少し引いた。

おわり

はい。久々に更新。
LARSです。撲殺されて捨てられてますが、LARSです。
いや、もうこの話。"小悪魔アスカの~"のタイトル通り、アスカの都合のいいように出来てます。
彼女にとって都合の悪い事や気に入らない事はすべてこうなるってコトで…。
修正: 2006/03/13
初出: 2006/03/12
Author: AzusaYumi