さてと、ラブラブハッピーエンドな話もいいけど、次は悲恋の話。
悲しい恋の物語よ。
って、ちょっと、ヒカリ! 何茶すすってるのよ!?
真面目に聞きなさいよ!
いい? これは真面目な話なの!
だからそんじょそこらじゃ話せないのよ!? 分かる?!
だからねぇ、あんまりこの話の登場人物の名前をストレートに出すわけにはいかないのよ。
そうね、登場人物はそういう関係上、その辺のヤツラを使うわ。
あん? 何よ、その不満そうな顔は!?
いいから真面目に聞きなさいよ!
そう言って彼女は語り始めた。
これは我が友人、惣流・アスカ・ラングレーの語る18の物語……
知らない天井だ……
シンジが目を覚ました時、目の前には見知らぬ天井があった。
どうやら自分は病院のベッドに寝ているようだった。
僕は……そうだ、エヴァに乗って戦って……
シンジはここに至る経緯を思い起こそうとした。
迫り来る“使徒”と呼ばれる巨大なモノ。
頭部だけ見せる巨大なロボットのようなモノ。
高圧的にシンジにそのロボットのようなモノ、“エヴァ”に乗って戦えと言う父。
そしてその父の言葉を拒絶した時にベッドに乗せられて運ばれてきた青い髪の傷だらけの少女。
そうだ、僕はあの子を助けたくてあの巨大ロボット……いや、“エヴァ”に乗ったんだ。
あの子、大丈夫だったのかな?
シンジが第3新東京市に来て、いきなり“使徒”と呼称されるモノと戦うことになった。
どうやらシンジの父、ゲンドウはその"使徒"が来ることを予測していたらしく、そしてシンジがエヴァに乗ることを“予定”していたらしい。
いや、本当は“綾波レイ”と呼ばれる少女、ファーストチルドレンと呼ばれてるのだが、が、そのエヴァに乗って戦うはずだった。しかし、彼女はエヴァの起動実験中に事故に遭い、かなりの重症を負っていたために“予備”とされていたシンジ、“サードチルドレン”が召還される事となった。
あの子、怪我をしていた。大丈夫だったのかな?
シンジは初号機のケージで見た少女を思い出した。
赤い瞳、青い髪、そして抜けるような白い肌。
そんな姿をした子は滅多にいるものじゃない。いや、この世のモノとは思えない容姿だ。
不思議なほど神々しく、美しく、そして非現実的のような存在感――
シンジはあの少女、“ファーストチルドレン”、綾波レイをそんな風に感じた。
しかし、“エヴァ”の前で逢った綾波レイは目に包帯を巻き、腕は明らかに骨折しているらしく、ギブスをつけていた。
たしかあの子、綾波って言ったっけ? 僕が抱き起こした時、血が出てた……
不思議な少女やエヴァ。色々な事を思い起こしながらシンジは、自分の病室を出た。
外の風景を見ていると、病棟の廊下を移動式のベッドで運ばれる少女がいた。
あ、綾波?
シンジは視線でその少女を追ったが少女、レイはまるで無表情だった。彼女は気が付いたか気が付かなかったのかわからないような表情をしていた。
そんな彼女に、シンジはおずおずと話しかけた。
「あの……綾波? だったよね? 」
レイは無表情な顔をして言った。
「……あなた、誰? 」
「あの、僕は碇。碇シンジ。」
「そう。」
レイはそっけなく答えた。移動式ベッドはそのままシンジを置き去りにするように彼女を運び去っていった。
シンジは無表情だが、何となく不思議な存在感のあるレイの姿が自分の心に焼きついて離れないのを感じた。
……が、しかし。
レイはこの後数週間後にシンジの事を綺麗さっぱり忘れてしまうなど、この時シンジは思いもよらなかった。
あれから数週間が過ぎた。一度使徒が襲来したが、初号機のみでなんとか倒せた。
シンジは慣れない学校でトラブルに遭いながらもなんとか友達と呼べそうな人が出来た。
そして、使徒襲来――
「それでは、今回の作戦を伝達します。しっかり、頭に叩き込んでね。」
ミサトが作戦室で使徒迎撃の作戦を伝達する。
曰く、作戦は零号機がシールドを担当して敵の加粒子砲を防ぎつつ、ライフル担当の初号機がA.T.フィールドを中和せず一気に殲滅するという内容だった。
作戦は“ヤシマ作戦”と命名された。
プラグスーツに身を固めたシンジとレイは作戦を実行すべく、エヴァに搭乗した。
シンジとレイはミサトの指示した射撃ポイントの第3新東京市を取り巻く山腹まで移動し、暗がりの中で作戦時間が来るまでエントリープラグの外へ出て待機した。
周りで騒がしく作戦準備が行われている最中、エヴァの肩を押さえつける為の固定プラグ横に設置されたタラップでシンジとレイは次の指示があるまで座り込んだままじっとしていた。
「綾波は…何故これに乗るの?」
シンジはタラップ上で黙り込んだまま座っているレイにたずねた。
「絆だから。」
「父さんとの?」
「みんなとの。」
「綾波は強いんだね……」
「私には何もないもの。」
時計の数字が0になり、ヤシマ作戦開始時刻になる。
まるでその時間が判っていたかのようにレイが立ち上がった。
「時間よ。」
レイは立ち上がって、そして言った。
「あなたは死なないわ。私が守るもの。……さよなら。」
シンジはレイを呆然と見た。儚げなレイの影。
そんな彼女の姿はシンジにとってまるで儚く散っていくさだめを持つ者の後ろ姿を見ているような錯覚を覚えた。
実は本当にレイが儚く散るとはこの時シンジは夢にも思わなかった。
作戦は辛うじて勝利した。しかし、ネルフは零号機が大破という大損害をこうむった。 シンジは大破した零号機のパイロットであるレイに会いたくて仕方なかったが、使徒殲滅後、直ちにパイロットの回収班が彼女を回収してしまって会うことが出来なかった。 そして三日後、レイが退院したとの知らせを聞いてシンジは急いでレイに会いに行った。
「綾波!!無事だったんだね! 」
シンジは病院の廊下に居たレイを見た途端、涙ぐみながら叫んだ。
「……? 」
レイはシンジが涙ぐんでいるのがよくわからなかった。
「自分には…他に何もないって、そんな事いうなよ。別れ際に、さよならなんて、悲しいこというなよ……」
シンジは涙を流しながらそう言った。
一方レイは何のことなのかという顔をした。彼の言っている意味がどうも判っていないようだ。
「何泣いてるの? 」
とりあえずレイはたずねてみた。
「綾波が生きてたからうれしくて泣いてるんじゃないか。」
シンジが泣きながら説明した。
しかし、レイはそんな彼の言う事など意に介す様子を微塵も見せずに口を開いた。
「ああ。それ、私じゃないわ。私は多分、3人目だから。」
まるで人ごとのようなレイの口ぶりに、シンジは一瞬何のことだか分からずにキョトンとした。
そう、2人目レイは既に死亡、クローンと入れ替わって現在のレイは3人目に入れ替わったのだ。
しかし、そんなことはシンジに分かる筈もなく、結局シンジはその場に取り残されて呆然と突っ立っているしかなかった。
その後、アスカが来日したり、色々あって瞬く間に時は流れた。
時々レイが「私は多分、○○人目だから」というセリフを言っていたのだが、シンジは何のことだかわからず、
『まぁ綾波ってこれが普通なんだ、きっと。そうだよ。ちょっと変った事を言ってるからって疑っちゃダメだ。
僕は綾波を信じてる。そう、信じてるんだ。』
などと、勝手都合良いように解釈していた。
そして第十六使徒。
零号機は侵食してきた使徒もろとも初号機を庇って自爆し、レイは果てた。
シンジはともに戦ったレイがいなくなってしまって呆然としていたが、やがてミサトから電話が入り、レイが無事であるとの連絡を受けた。
慌てて病院へ直行したシンジは、レイが無事であることを確認して思わず安堵の胸をなでおろした。
「よかった……綾波が無事で。」
「………」
「あの…父さんとかは来てないんだ。……ありがとう。助けてくれて。」
「何が? 」
「何がって。零号機を捨ててまで助けてくれたじゃないか。綾波が。」
「そう、あなたを助けたの。」
「うん。覚えてないの? 」
「いえ、知らないの。……多分、私は10人目だと思うから。」
シンジは此の期に及んでまだ気が付いてなかった。
レイが出撃する度に死んでクローンと入れ替わっているという事実を。
結局リツコにクローン製造工場を見せられるまでその事実にシンジは気が付かなかった。
…というわけでシンジは説明されるまでファースト……じゃない、レイがクローンと次々と入れ替わっている事実に気が付かなかったってワケよ。
惚れた女が次々に入れ替わってるのに気が付かないなんて、鈍感もここまで来ると犯罪よねぇ~~♪
「あの、アスカ? 」
私はアスカに声をかけたけどアスカはかなり悦に入っているらしく、私の声に気づいてくれなかった。
END