こんな夢を見た。
何処まで行っても一面の赤い海。
赤い海の水平線には太陽が照り、頭上には月。ずっと深い部分には地球がぼんやりと見えた。
自分はその中心に一人、横たわっていた。
目の前にはゆらゆらと少女の陰が映っていた。
少女は一糸纏わぬ姿で銀の髪を揺らし、自分を見下ろしていた。
大きく赤い瞳の中には自分の姿が映っていない。まるでここには誰も、そう、自分すらも居ないようだ。
それでも彼女は自分の事をひたすら見つめていた。
その表情は笑っているようにも見えたし、憂いているようにも見えた。
見下ろしていた少女が、方向を指し示すかのように振り返った。
自分もそちらの方を見た。
そこには、継ぎの無い服を着た赤い髪の少女が、身を抱え込んだまま漂っていた。
彼女の長い髪が顔の周りを揺らめいていて、表情が見えない。
心が急いだ。どうにかしないといけない。
体を起こし、漂う少女に手を伸ばした。
彼女の身体が水の流れに揺らめいて、なかなか掴まらない。
それでも精一杯手を伸ばし、やっと手が届きそうになった。
その時、裸身の少女が何かを問いかけたような気がした。
"辛い現実が待っている"と。
それでも、彼女を忘れてしまう事が出来なかった。
辛い現実が待っていたとしても、彼女を置いてそのままここに居る事が出来ない。
漂っていた少女をやっとの思いで掴んだ。
抱き抱えた時、血の匂いと一緒に甘い香りがした。
少女の甘い香りは、急いだ心に安らぎをもたらした。
赤い瞳の少女は一瞬寂しそうな顔をしたが、優しく微笑んだ。
とても、母に似た笑みだった。
少女の姿が揺らめいておぼろげになって消えていく。
この時、自分は母と永遠に別れた事にようやく気が付いた。
シンジはぼんやりと星空を眺めていた。どうも自分は寝転がっているらしい。
とても長い夢を見たような気がした。赤い海の水底に横たわっていた夢。その中でレイと逢ったような気がした。そして、アスカとも。レイはただひたすら自分を見つめ、アスカは赤い海に漂っていた。
天には赤い一筋の線が横切り、月には血の斑点のようなものが滲んでいた。非現実的なのに、妙にリアリティーのある風景だ。打ち寄せる水の音が聞こえる。シンジは顔を真横に向けた。赤いプラグスーツ越しに、血のような色をした海が広がっていた。
シンジは急に上半身を起こした。自分の直ぐ隣で、横たわっている人がいる。それが誰なのか、一瞬認識出来なかった。長い夢から覚めた後だからだろうか?身を起こしたシンジは、隣で横たわっている人物をまじまじと見た。
長い赤みがかった髪と蒼い目、赤い継ぎの無いプラグスーツを纏った少女。アスカだ。
誰がそうしたのか判らないが、右手と左目に包帯が巻かれている。少女は隣に横たわっていた少年の存在に気が付かないのか、残った片方の目で漠然と空を眺めていた。
「…アスカ?」
返事が無い。包帯のなされて無い片目はシンジが見えるはずなのに、まるで気が付かない。
シンジはアスカに覆いかぶさるように上になり、彼女の左胸を掴んで胸の中心に耳を押し当てた。
胸に当てた耳には周りの波の音が聞こえるばかりで、手には何の振動も伝わらない。
シンジはじれったくなって、彼女のスーツの左腕に突起している部分を、親指と人差し指で手首を握るように強く押した。エアーの抜ける音と共に彼女の身体にぴったりと張り付いていたスーツが緩まる。
上部の留め金部分をこじ開け、シンジはそのまま彼女のスーツを上からずるずると脱がした。彼女の肩や胸が剥き出しになるが、シンジは構わず腹部までスーツを引きずり降ろした。少し浮いたあばらや鎖骨、そして色素沈着した傷跡がみみず腫れのように腹部から胸にかけて走っているのがシンジの目に映る。
彼の中に酷く息苦しい想いがよぎる。
装甲を剥がされ、喰らい尽くされたエヴァ弐号機。中のアスカがどんな姿になっているのか、想像もしたくなかった。何より今のこの状態や少し前にあった出来事が、夢か現実かよく把握出来ない。記憶が錯雑としていて、自分の置かれている状況が今ひとつ理解しきれずにいた。はっきり記憶に残っているのは、アスカが赤い巨人に乗り込み、それが蛇のような巨大なバケモノどもに食い散らかされた事だけ。シンジ自身も同じような巨人に乗っていたのを漠然と思い出し、それがどういうものだったかも記憶に蘇る。そう、あれにはフィード・バックがある。巨人、そう、エヴァの受けた痛みはそれを操作するものにそのまま跳ね返ってくる。となれば、バケモノどもに食い荒らされたアスカのエヴァ、弐号機からのフィード・バックは半端なものではなかっただろう。自分も、エヴァの痛みのフィード・バックを受けた事があるが、骨を砕かれたり、頭部を貫かれた時に受けた衝撃は並大抵のものではなかった。
アスカがバケモノから受けた痛みと恐怖の悲鳴が頭の片隅に響く。あんな声は二度と聴きたくない。
シンジは彼女の左の乳房に自分の掌を乗せ、再び胸の中心に耳を当てる。
微かにくぐもった空気の流れる音と共に鼓動が聞こえた。
「生きてる…」
安心したシンジは、そのままアスカの胸に顔を埋め、小さく吐息をした。
彼女の胸が小さく上下する。血の巡る微かな音と呼吸音。それだけで何故か気持ちが落ち着く。
そうしている内に、シンジの中で曖昧だった記憶が次第にはっきりしてくる。
「…アスカ?」
声を掛けても返事は無かった。
目の前の蒼い血溜まりの中であちこちを喰い千切られながら海老のように身を丸くしている弐号機。右腕は縦に裂かれ、中の筋や骨や筋肉が見えた。装甲を剥がされた素体からは器官が引っ張り出され、体液を滲み出している。四つの目の内、左側二つに大きく穴が開けられ、眼球が飛び出していた。周りに集っている顔や胴体が半分潰れたバケモノ達の手と口元には蒼い血と肉片がこびり付き、白い筋や血管らしいものを垂れ下げている。
驚愕、失意、絶望、後悔。色々なものがないまぜになり、同時にシンジの中に怒りが沸々と湧き上がる。
誰がこうした?あのバケモノ?いや違う。自分だ。
アスカが戦っていた時、自分は逃げていた。病室のベッドの上に転がっていたアスカに、自分に都合のいい夢を見て、その後は逃げた。アスカもエヴァも関係無い場所まで行って、自分だけの安らぎを求めていた。そうしてじっとしていれば、ほとぼりが冷めて自分のしでかした罪が軽くなると思っていた。そんな事なんて、あるわけ無いと判っていたのに。
だけど、そうやって逃げてる間に、アスカは一人でここに来て戦っていた。
絶対に、もう戦える筈が無いと思っていたのに。
初号機のエントリー・プラグの中、シンジは目の前に広がる光景に俯き、力一杯操縦レバーを握りしめた。
どれだけ自分の考えが甘く、自分にだけ都合の良いものだったか、思い知らされた。戦おうと思えば戦えたのに。アスカがこうなったのは……。
「…うっ…ああああぁぁぁぁぁぁ!」
シンジの叫びと共に初号機が咆哮を上げる。それと同時にシンジの怒りをそのまま表すように、未だかつて無いほど強力なA.T.フィールドが発生し、それが形を成し、羽のように広がった。張り詰められたフィールドの作り出す位相空間は、辺りの空気を圧迫し、周辺の木々や施設を吹き飛ばした。
量産機達が初号機の方に振り向き、何かに気が付いたかのように羽根を広げ始めた。
そして、一斉に初号機の方に向かって飛び立つ。
「…殺して…やるっっ!」
シンジが吼えた。
まず最初に近づいてきた一体の顔を掴み、握りつぶした。
二体目は首を引っつかみ、地面に叩きつけて腹に手を捻じり込ませ、中の物を徹底して引きずり出した。三体目、四体目は腕を引き千切り、首を捻じり切った。初号機の背中に羽のように広がるA.T.フィールドに喰らいつこうとした奴がいたが、片腕で首を掴み、そのまま地面に顔を潰すように叩きつける。
「殺してやる…殺してやる…殺してやる…!!!」
自分が呟いている言葉に気付きもしないで、シンジは量産機を徹底的に叩き潰す。
彼は決して上手い戦いが出る方ではなかったが、普段の大人しさなど忘れ果て、あからさまな憎悪や怒りを叩きつけ、相手を徹底して潰そうとする。そんな彼の戦い方に、それをモニターしていたマヤ、日向、青葉などのオペレーター達は愕然となる。
獣のようでいて、人のような形をした量産機。そして同じく人のなりをしつつ、鬼神のようになって量産機達を叩き潰す初号機。それはまるで、原始に戻った人が殺し合いをするような光景だった。ただ、腕を引き千切り、臓腑を引きずり出すほどの狂暴で圧倒的な力は、人に或らざらぬものだ。
マヤはあまりにもの惨状に、胸から込み上げてくる嘔吐感に口を塞ぎ、目を覆う。
こんなものを作るのに、自分は力を尽くしていたなんて…。
何度かの実験の立ち合いや、データの解析などを行ってきたが、目の当たりにすると自分のしてきた事のおぞましさが嫌というほど思い知らされる。
日向や青葉に至っては、ただ呆然と見ていた。かつて、こういう場面は何度か見たが、それは全て発令所からの信号やパイロットの制御下から外れた時のエヴァ初号機そのものの暴走だった。しかし、今は違う。シンジ自身がその意思を持って動かしている。その動きは機械や獣というより、人そのもの。何かに復讐を遂げようとし、暴れ狂う者の動きだ。
自分の周りに群がってきた量産機をあらかた潰したシンジだが、一番遠くに居た奴が、弐号機の方に向かっていくのが見えた。咄嗟にシンジは危機感を感じ、走り出した。そいつは弐号機の側に来ると、素体が剥き出しになった腕を掴んで引きちぎり、エントリープラグの挿入されている背を掴もうとする。シンジはゾッとして、走りながら手を伸ばす。
量産機が弐号機のエントリー・プラグを引き抜いた。
シンジの脳裏に、親友が搭乗していたエントリープラグを初号機が握り潰す光景が蘇る。
彼の中で、失望や恐怖が一気に押し寄せる。
「アスカっ!!!」
シンジが手を伸ばしながら叫んだ。
瞬間、辺りが真っ白になった。
何が起こったのか判らなかった。ただ、周りが真っ白になって、何も見えなくなった。
シンジは走るのを止めて、呆然と立ち尽くしていると、突然周りに景色が戻った。
白く巨大な人の手のようなものがシンジの目に映る。それが、量産機を跳ね除け、アスカが搭乗しているエントリー・プラグを掬い上げるように抱え込む。同時に、女性の肢体のようなものが目に映る。それが、周りに広がりを見せながら身体を起き上がらせるかのように、地面から持ち上がった。
白い肢体がその顔を地面から表し出した。それは、シンジの良く知っている少女と同じ顔をしたものだった。
「あ、綾波…?」
確かにレイだった。とても、哀しみに満ち満ちた表情をしていた。慈しむようにアスカの居るエントリー・プラグをそっと抱え持ち、白く淡い光を周囲に広げながら、たおやかな肢体を起き上がらせていく。
「レイ…?いえ、あれは…リリス?」
発令所内で、メインモニターに映し出された白く巨大な少女の姿を前に、マヤがキー操作している指を止めて呟く。研究の為に僅かながらの情報を与えられていたマヤは、それが何であり、何を意味しているのか直ぐに悟る。そして、今から起こりうる事についても、すぐに検討がついた。
マヤは急に思い立ったように手元でキーを操作した。自分のコントロール・パネルの前で映し出されている、現在のエネルギー感知とその解析結果の横に、過去に起こったセカンド・インパクトのデータを並べ、比較、検証する。A.T.フィールドの反転と逆数値化。検出された膨大なエネルギーの計測不能な域までの上昇、その率の変動等。今起こっている事は、何もかもセカンド・インパクトとデータが酷似していた。
マヤは震える指でそれらのデータを次から次ぎへと自分の操作パネルの前に並べては見比べる。
「…間違いないわ。これ…セカンド・インパクトと同じ…」
畏怖を持って呟いたマヤの言葉に、メインモニターを見ていたミサトが気付き、目を細める。
レイ…リリス?セカンド・インパクト‥どういう事?
リリス。確か、かつて自分の恋人であり、日本政府や世界を裏から操っていたゼーレなどの諜報部員をしていた加持が、今際の際に渡してくれたデータで見た名だった。確か、第二使徒の名前。存在はしていたらしいが、まったくの"unknown"とされていた。今から起こる事象と、何か関係があるのか?いや、まさか…?
僅かの間、訝しげにマヤを見ながら、彼女の呟いた"リリス"の名に色々な非公開の極秘データの事を思い出して考え込んでいたミサトだったが、ある事に気が付いた。
…サード・インパクト…!
ミサトの背筋に凍りつくような戦慄が走る。
リリスが、"レイ"が、白い肢体と光を辺り一面に拡大していく。
既に血と肉の塊となっていた量産機の残骸が、真白い肌と赤い瞳をした娘の姿へと変質する。
弐号機のプラグを抱えていたレイが、一瞬痛ましそうな顔をした。
まるで我が子の死を嘆く母のような哀しげな表情で、抱え込んだエントリー・プラグを抱きしめる。まるで沈んでいくように、アスカの入ったエントリー・プラグは白い素肌の中に融けていった。
シンジは事の成り行きを、ただ呆然と見ていた。
何が起こっているのかまったく判らない。レイの姿をした女の肢体は、どんどん広がりを続け、既に見上げなくてはいけないほどに拡大していた。それでもシンジは、何も出来ず、何もしないままじっとそれを見上げていた。
初号機の背に広がっている羽根に、肉の塊だった量産機…今は少女の姿をしたもの達が、羽を広げ、近づく。シンジはそれにすら気が付かないのか、広がり続ける白い肢体の女をただ眺め続けていた。少女達に、羽根を掴まれて天へと拘引されても、シンジはそのままで居た。眼下には雲の海が、その合間から海や山並み、破壊された街やジオフロントが見え隠れしていた。
少女の姿をしたもの達は、白く輝くレイの目前まで、初号機とシンジを連れてきた。レイの姿をした白い女は、目の前で呆然と自分を見る者を、憐憫の眼差しで見る。
"還りましょう‥"
前に、聞いた事のある声。
でもそれは、とても哀しみに満ち満ちていた。
「…沢山の、人の中の夢を見たんだ…アスカ」
満天の星空の下、シンジは輝くような赤い海を、少女の乳房の谷間からぼんやりと眺めていた。
掴んでいる彼女の左胸を、やわらかく撫で擦る。
「色々な人の夢があったんだ。叶えられなさそうな夢とか、昔見た夢とか。」
少女の左の乳房から自分の掌を少しだけ離し、彼女の傷口をなぞるように素肌に指を這わせてる。
少し、少女の身体が震えたように感じた。
胸に顔を埋めていたシンジは、身を起こして少女を真上から見下ろす。
「おかしいよね? みんな、夢だけは見るんだ。嫌な現実から目を逸らす為の、自分にだけ都合のいい夢。でも…」
呆然と真上を見たままの少女の左の頬をそっと撫でる。左目の包帯の下。今、どうなっているのだろう?
シンジは右腕の方を見る。彼女の右腕に巻かれている包帯からは、ほんの少し血が滲んでいた。
彼は、それを触れるか触れないかでそっと撫で下ろす。
「僕も、同じか…」
シンジは仰向けになっている少女の首の下に手を回した。
彼女の頭の後ろを抱え込むと、自分の肩へと引き寄せ、抱きしめた。
赤い海の中で、レイは深く優しい瞳で、シンジを見つめていた。
沢山の人の叶わない、叶わなかった、叶えるつもりもない夢を見続けたシンジは、呆然として横たわっていた。
レイが別の方向を見た。シンジもつられてその方向を見る。彼の目に、アスカが身を丸くしたまま漂っているのが見えた。シンジは慌てて身を起こして彼女を掴もうと、必死になって手を伸ばした。
やっとの思いで手が届きそうになったと思った時、レイが哀しげに言った。
『彼女、怯えているの。誰かに必死に助けを求めているのに、誰も受け入れようとはしない。
みんなが怖いの。だけど、それでも、私へ還ろうとしない。あなたは、彼女が欲しいの?』
シンジは何て答えればいいのか判らなかった。
『…彼女は最後に残った他人よ。あなたが彼女を選ぶのは、他人の存在を認める事になるわ。
辛い現実が待っているのに、それでも彼女が欲しいの?』
欲しいのかも判らない。シンジはどう答えればいいのか判らなかった。
アスカを選ぶ事は、辛い現実を選ぶ事…だけど、彼女を諦める気になれない。
『…守りたいの?』
シンジにとって、守れない存在だった。首を振るしかない。
『…側に居たいの?』
本当は顔もあわせ辛かった。彼女の側から逃げ出したかった。首を振るしかない。
けれど、
「このままじゃ嫌なんだ‥忘れられないんだ、アスカの事。」
そう言って、アスカの腕を掴んで自分の方へ引き寄せた。抱きかかえた時、血の匂いと一緒に、少女の甘い香りがした。とても、心が安らいだ。
レイはそんな彼の様子に、少しだけ俯いて寂しそうな顔をしたが、すぐに優しげな微笑みを浮かべた。
『良かったわね‥』
母に良く似た声と笑み。そうシンジが思った瞬間、レイがぼやけて見えなくなっていった。
自分の手の中に残るのは、アスカの柔らかな感触と血の匂いと甘い香り。
よぎったユイの顔とレイの顔。寂しそうな微笑みだった。
どっと寂しさが沸き起こる。この時、シンジは母と永遠に別れた事に、ようやく気が付いた。
泣き出しそうになって、それに耐えようと、かかえていたアスカを強く抱きしめた。
「さよなら‥」
今のシンジには、それしか言えなかった。
「うっ‥‥」
シンジに抱きしめられたまま、呆然として空を見つめていたアスカがうめき声を上げた。
生暖かい人の温度。首と肩に微かに感じる息の湿り気。肉と皮膚が押し付けられた感触。背に触れる指の、一本一本の存在。自分以外のものの、異質な触感。無性に嫌悪感が込み上げ、鳥肌が立つ。触れられる場所全てが不快で仕方が無い。手を離させようと、むずがり、身じろぎをする。それでも抱きしめ続けるシンジに、今度は左手を背に回して爪を立てた。かなり強く爪を食い込ませているのにも関わらず、彼は声一つ上げようとしないしない。
気持ち悪い‥
アスカは身体を強く捩ってシンジから離れようともがいたが、彼はそんな様子を見せない。したたかなほどに抱きしめ続けるシンジが、自分の身体にねっとりとまとわりつくようで、彼女の不快感をより一層増させた。
アスカは顔を顰め、眉を寄せ、ありったけの嫌悪と憎悪を込めて言った。
「離して‥吐き気がする…気持ち‥悪い!!!」
ずっと望んでいた事をされていた筈なのに、そんな言葉しか出なかった。