「ねぇ、アスカ? 最近ちょっと、男子の様子おかしくない?」
「そう?」
「特に、社会の授業なんか変よ、授業中、みんな起きてるのよ?」
「え? そうなの?(ずっとシンジ見てるから、きづかなかったなんて、言えないわね…)レイは気付いた?」
「…私も寝てるから、わからないわ」
「あ…そう…聞いたアタシが馬鹿だったわね… レイじゃないけど、あんな授業、真面目に受けてるのヒカリくらいでしょ?」
「寝てる方がいけない事なのっ! でもね、男子のほとんどが、端末を集中してみてるのよ…」
お約束の授業、お約束の昔話…。
少年少女達に、仮初めの安らぎを提供する、眠りの砂が舞い散る声。
「あの頃、私は…」
安寧のひと時が、暖かな教室に静かに流れていく…
…筈なのだが、ここ第三東京市立第壱中学校の2-Aの男子達は以前と違う。
端末に向かい、集中してる。
それほどまでに、集中することはハッキリ言ってありえない状況。
一部、目が血走ってる少年も見受けられる。
それほどまでに、彼らを集中させるもの。
アスカが自分の前に座るシンジのモニターを覗き見ている。
授業開始と共にずっと覗いているのだが、今のところ、自分のモニターに写るものと変化がない。
開始10分ほど過ぎた時、新着メッセージのポップアップが現れた。
淀みなくブラウザが起動させる。
アスカのモニターには変化がない。
-何してるの?-
覗き見るブラウザの中に文字が流れ始めた。
Kだ、短い時間だが、今日もよろしくな。
まずは、報告だ。
先週、S・I君が見事に、成功していたことが明らかになった。
おめでとう。
最高難関を突破し、見事に手に入れたな。
まだ秘密にしてあるんだろうが、俺の情報網に入ってきてな。
祝福の言葉はその辺までにしておこう。
まだ、他の人は知らないことに成ってるんだからな。
ばらさないように、気をつけてくれ。
俺の方からも、別居にならないように、根回しくらいはしておこう。
ご祝儀代わりだ。
前回も言ったが、
彼女のようなタイプは、雰囲気に流されることが多いんだ。
それこそ、気になってる人からだと、こっちが整えなくても、勝手に想像して盛り上がってることがある。
そういう部分を利用するのも手だな。
だろうな。
そうだな、俺も聞いておきたい。
NOと言わせないってのは、強気な女の子には有効だ。
強気な女の子ほど、いざという時には自分を引っ張って欲しいって願望があるからな。
思い出の場所に銀製品。
若い女の子は、金より銀を好む傾向がある。
天使って選択もかなりいい手段だ。
これは、参考になるからみんなも覚えておくといい。
強気な女の子というのは、こっちが弱気になるとマイナスポイントになるからな。
最終的に、言うことを聞いてあげたほうがいいんだが、
それまでに、少しからかうくらいの方が良い。
照れさせるようにね。
たとえば、後ろから抱きしめてあげたりすると、概ね動揺して怒ったフリをするはずだ。
「こうしてたいんだ、大好きな子を抱きしめていたいだけ。 だめかな?」
とか、言ってみるといい。S君のAちゃんなら、顔を真っ赤にするだろうね。
しょうがないからとかいうだろうし。
成功すれば、主導権を握れるようになるはずだよ。
試してみるといい。
もちろん、ストレートに言うのも、なかなか効果的だから忘れないように。
H・Hちゃんだったよな?
彼女のタイプは平凡を望んでいるんだよ。
だから、告白の方法も王道が一番望ましいと思うよ。
君らの学校にもあるだろう? ここで告白すれば、願いがかなう木とか。
ラブレターで、「お話がしたいことがあります。放課後、〜木のところで待ってます。」
と、先に期待を持たせるのを忘れてはいけないよ?
これは、王道の基本だ。
「明日の放課後」とかの方が、いいかもしれないぞ?
期待を持たせるなら、一晩考えるくらいの時間があったほうが盛り上がるもんだ。
もちろん、朝ではなく、下校時にラブレターに気がつくように入れるんだ。
言葉自体も、S君みたいにひねらない方がいい。
「好きです。付き合ってください。」の方が、いいぞ。
直球勝負って言うのは、熱意を伝える時には有効な手立てだからな。
それに、盛り上り過ぎてた場合、下手な言い回しだと相手が理解できなくなる。
舞い上がってしまうからな。
もし、資料が欲しいなら、少女漫画の告白シーンを参考にするんだ。
内容的には、告白される主人公が高校生くらい…、君より、少し年上のが活躍するものがいいだろう。
これは、全般に言えることだが、家庭的な女の子っていうのは、波乱万丈を望んでいるわけじゃない。
波風は、少ない方がいいんだ。
ドラマみたいな、とか言うが、巻き込まれるとその熱を冷ましてしまうことが多い。
まぁ、小さな波風程度で揺れるのを楽しむということはあるかも知れん。
これは、付き合ってからは特に重要なことだから覚えておくといい。
普通に、接してあげるといいんだ。
でも気にしてる、って空気をちゃんと出すことだ。
まず、彼女の視線を感じたら、すぐに振り向いて視線を合わせること。
笑顔を見せろとまでは言わないが、安心させることが重要だな。
人生自体は平凡だが、「私には私を愛してくれる人がいる。」ということを確認させ続ける。
そういうのを、夢見てたりするからな。
だが、言葉で、好きだ愛してると、何度も言ってたらダメだ。
言葉より態度。
こちらの方が重要だ。
あと、家庭的な子っていうのは、意外と折れない。
いくら道理にかなってなくても、その子の中の道理には間違ってないからだけどな。
そういう時は引くに限る。
引いたフリをしてなんて、甘いことを考えない方が良い。
そういうのに幻滅したりすることが多いからな。
どうしても、引くわけには行かないって、時もあるだろう。
そういう時は力ずくでしか方法はないが、それでも、大事だからという態度を忘れたらだめだ。
あとは、付き合ってすぐの頃から、ゆっくりと時間をかけて自分の考え方に染めてしまうことだな。
これなら、衝突することは少ない。
その代わり、一度安定した関係は、崩れにくいのが特徴だ。
後は、自分で選ぶんだ。
やれることをやる、それが一番大事だ。
ここまで言ったが、これは俺の予測に過ぎない。
恋愛の嗜好を確認するには映画を一緒に見るといい。
ラブロマンスの物語だな。
映画を見るのも大事だが、彼女の表情を良く見てるといい。
自分が、こうされたいというシーンで、自分に置き換えてみてたりする。
作品全体でこういう恋愛がしたいって時は、終わったあとでもかなり夢見てるはずだ。
「どのシーンが良かった?」って、言葉よく聞くだろう?
あれは、そういうことをして欲しいってサインでもあるんだぞ。
言葉のつなぎや、感想を求めているわけではないんだ。
これは、付き合ってからで出来るから、急ぐ必要はない。
望むものを与えてやれば、女性はこちらの色に染まりやすいからな。
まぁ、男にしてみればラブロマンスの映画なんて、催眠誘導映画なんだがな。
良く、観察したければ、自宅でDVDにしたほうが良い。
映画館だと、暗くて微妙な変化はわかりにくいからな。
こんなとこだろう。
I・Mちゃんか…
彼女は…難しいね。
多分、攻略にもっとも時間がかかると思うぞ。
彼女は白馬の王子様がとか、よく言ってるようだが、
王子様じゃないな。
どちらかというと、彼女は姫だからね。
戦国時代の姫君といったところかな。
そして、表に裏に自分を守ってくれる存在に恋する、といったところかな。
ん〜、既に面識があるというのが、ネックかもな。
面識がなければ、メールなどのやり取りで、意識させて逢った時に勝負する。
これが簡単なんだが。
メールというのは、知らない相手だけに、結構大胆な相談をしてくるからな。
そこに、助け舟を出せばいいだけだからな。
だが、君の状況的に、この方法は無理だ。
どちらにせよ、彼女の精神安定の助けになってあげることが出来れば、一気に傾いてくるはずだ。
彼女の場合は、追い詰められると、自分で何とかするしかない。
立場上そうでもあるしね。
だから、辛くてもそれを見せられない。
そんな時に、助けてくれる人。
つまり、自分を良く見てくれる人だな。
彼女のちょっとしたところを、良く見ておくことだね。
そして、捌け口になってあげること。
彼女は相手を見るときも、財力だの見た目だのより内面的なところを見てるはずだよ。
そこを、自分のアピールするポイントにしてみるといい。
相談をされるようになるまでも、時間がかかるし、
されるようになってからでも、ただの相談相手に納まってはだめだ。
どちらにせよ、長丁場になるな。
時間をかけて、ゆっくりと攻めることだ。
がんばるんだな。
君は無駄だ諦めろ
おっと、今週はそろそろ時間のようだ。
来週からは、現地調達に関しての講座だな。
週末は野外講座の予定もあるな。
opA君の協力で、ライブハウスで行うことになってる。
参加希望者はメールを忘れないようにな。
背中越しに覗き見る視線に気付かないシンジ。
(そういうことだったのね…ヒカリの為に今は黙っておいてあげるわ…)
〜夜・葛城邸
夕食も終え、いつも通りクッションを抱えテレビを見るアスカ。
後片付けと、明日の弁当の下拵えをしているシンジ。
そして、既にえびちゅ片手に夢の旅路を楽しんでるミサト。
いつもと変わらない風景といえる。
一通りの仕事を終えたシンジが、ミサトを布団へと運ぶ。
恋人達の時間というやつだ。
シンジにしてみれば、待ちわびていた時間。
今日の講座を実践するのだ。
-宿題は終了させてある。後片付けも明日の準備も、お風呂の支度も終わってる…。
アスカは、この後いつものドラマがあるから、まだ部屋には戻らない。-
やはり、恥ずかしいのに変わりのないシンジはこれからする計画の再確認をする。
-後ろから、優しく抱いて…
ただ大好きなアスカに、こうしたかったからだよ、だめかな?
って… よし! やるぞ!-
勇気を出してアスカの背後に回る。
そのまま、アスカの腋の下から腕を通し、腹部に回して引き寄せる。
アスカの髪の毛からシャンプーの香りが溢れだす。
その香りに引き寄せられるように、うなじに顔をうずめる。
-いい匂いだ… って… あれ?-
アスカの反応が…ない。
「くすぐったいわね、なにしてんのよ?」
素っ気無い…照れてるとか、怒ってるとかでもない。
感情のない棒読み。
「いや、ただ大好きなアスカにこうしたかっただけ、ダメかな?」
予定と違う反応に、対処できずに予定通りの話すシンジ。
動揺を見せてないだけ、まだマシである。
頭の中ではうろたえきってて、思考がまとまってないにもかかわらずだ。
立派といえる。
「あっそ、」
またもや棒読み。
レイの「そう…」の方が、感情がこもってるといえる。
こちらの場合、拒絶を感じられるのだが。
-ア…アスカに嫌われちゃった? もしかして? ど、どうしよう…-
冷静な判断が下せない。
考えれば、嫌いな人を抱きしめさせておくアスカではないことに気付くはずだが、無理というものだろう。
マイナス街道を驀進中の思考が、シンジの感情を染めようとした時、アスカは急に振り向き首に両手を絡め抱き返してきた。
「じゃ、アタシもこうする。」
首筋にアスカの息が吹きかかり、くすぐったい刺激が背筋に甘い痺れを奔らせる。
これがトドメとなり、シンジの頭脳は過負荷に耐え切れず、シャットダウンに追い込まれる。
体の動きも見事に停止させ、身動き一つとらない。
瞬きさえ停止させてるようにみえるのは、誇張ではない。
「あら? 予定と違うから、どうしていいか分からなくなっちゃったのかな?」
そのまま、動く気配のないシンジに、アスカのイタズラ心が目覚めた。
アスカの言葉にゆっくりと再起動が行われていく。
「何とか言ってみなさいよ? 最近、変わったなと思ったら、ああいうことだったとはねぇ…
アンタからの告白も、いつになくカッコ良かったシチュエーションだったし…」
「ちっ! 違うよっ! あれは僕が必死に考えた言葉なんだ!
そのために、何度も徹夜して計画を立てたんだ!
加持さんから教わったとか、そういうのじゃなくって…、って…あ…」
「ふぅ〜ん、K先生って、やっぱり加持さんだったんだ…」
「なんで、アスカがそのことを…」
首筋から顔をあげ、じっとシンジを見つめる。
そこには、イタズラ好きの子猫が浮かべる、満面の笑顔。
「ふふふっ、乙女の秘密よっ!」
「ばれちゃってたのか… でもいいや、アスカとこうしていられるなら。」
苦笑いにもかかわらず、嬉しいさを感じさせる笑顔を浮かべ、シンジはそのままアスカを抱きしめる。
アスカも額をシンジの額にコツンとあてて、間近でその瞳を見つめる。
「そうよ、人の言葉じゃなくてシンジの言葉で… ね?」
「うん。大好きだよ」
この日から、シンジは特別講座を見なくなる。
歴史の授業は、再び安らかな時間に戻るのだから。
ご冥福をお祈りいたします。
〜おまけ〜
「そうそう、加持はん、入院やってな? 大丈夫なんか?」
-Kセンセ、葛城はんにボコられたんやろ?-
「ん〜 酷いけど、あの人なら慣れてるから大丈夫だよ。
別居の根回ししてくれたから、秘密にしておいたんだけどなぁ、野外講座のこと」
-別居の件があるから、アスカも内緒にしてくれるって言ってたんだけど…、
そうそう、僕らも野外講座に参加予定だったのは、絶対に秘密だからね。 -
「わしらはいいが、他の連中、野外を期待してたよってになぁ…」
-あぁ わかっとる。わしかて、センセと一緒や、折角の成果を無駄にしとうないわ-
「ん〜、ばれたらって、わかっててやろうとしてたみたいだし、ある意味、自業自得だよ。」
-世話になったのは事実だけど、僕だって、我が身が可愛いよ…-
「ほやな、葛城はんみたいな別嬪さん掴まえとって、あれやったら…」
-ほやな、危ない橋渡りとうないわ…-
「そうそう、僕らは気にしたらだめだよ。」
-冷たいかもしれないけど、これ以上関わるのは危険だしね。-
「せや、センセに聞こうと思ってたんやけどな、週末イインチョとデートなんやけど…」
-了解、お礼を兼ねて、見舞いに行こかと思ったが、やめやな-
〜現地調達講座中止のお知らせ〜
大変ご好評を頂いております、Nerv特別通信講座で御座いますが、
K先生が急病による入院の為、当面の講座を中止させていただきます。
皆様にはご迷惑をお掛けいたしますが、何卒ご理解のほどよろしくお願いいたします。
また、K先生の御早い回復をお祈りしますと共に、励ましのお便りをお待ちしております。
「やめてくれ! 手紙なんかいらんっ! これ以上葛城を刺激しないでくれっ!」