今のアタシは…多分、恋してる。

最初は…あんなに冴えない奴なんか、他にはいないと思ってた。

何故? そんな疑問が浮かぶくらい。

『私が好きなのは、加持さんだけよ。』

 あの頃のアタシは間違いなく加持さんが大好きだった。

『そいつは光栄だな、』

『っもう! 加持先輩とだったら、いつだってOKの三連呼よ! キスだって、その先だってっ!』

 あんな風にはぐらかされても…それが大人の余裕って感じで、余計に惹かれてたっけ。

 言いながら思いっきり抱きついても…何にもしてくれない。

 それが寂しくて、自分に女としての魅力が無いんだって…それが、悔しかった。

『アスカはまだ子供だからな、そういうことは、もう少し大人になってからだ、』

『え〜っ!つまんな〜い、私はもう十分に大人よっ!』

気づいたときには、アタシの傍にいつもいてくれて…アタシに気を使ってる。

それが、嫌じゃないって気付いたときに、コイツへの見方が変わった。

『無理しちゃって…』

 アタシが死んでしまいそうな時に、シンジは他意もなく…溶岩の中に飛び込んだ。

 一歩間違えば…間違いなく死んでしまうのに…

 加熱されたLCLが肺を焼くのと、アタシを引き摺り出すのなんか…比べるだけ馬鹿らしい計算なのに。

 シンジはアタシに対する感情なんか、きっと無い。

 ただの御人好し。

 それに対する、アタシの感想がさっきの言葉。

 素直にありがとうって言ってたら、今頃悩まずにすんだのに…

 馬っ鹿みたい。

だけど…その気持ちを口に出すことが出来ない。

何でだろ?

自分で、自分に訊いてみる。

『そんなの簡単よっ! アンタのプライドが許さないんでしょっ!』

もう一人のアタシが、その答えを簡単に出す。

解かってる…プライドが原因だって…

アタシは、アイツを好きだって認めたくない。

アイツみたいに、鈍くさくてダサい男をなんで…

自分より劣る相手になんで…

心も子供なアイツになんで…

なのに…だから、それに理由はない。

『ねぇシンジ…、キスしよっか…』

 SDATを聴きながら、本を読むのに夢中になってるシンジを誘惑する。

 多分…アタシは…

『退屈だからってっ!そんな…』

 戸惑うコイツにアタシはさらに挑発する。

 それも、母親を引き合いに出して…

 こうやって言えば、シンジがその挑発に乗ることが解かってるから。

『鼻息がこそばゆいから、息しないで』

 そしてアタシは確信した。

そういうもんだって言うのは、聞いたことあるし…それに、今のアタシがそうだから。

だけど、プライドの高いアタシはそれを認められない。

自分に似合う相手は…冴えてて、アタシよりずっと凄くて、大人な人。

なのかな…? 本当に?

わかんないけど…

 アイツに負けた…

 何から何まで平凡でしかないアイツに…

 10年も訓練し続けてきたアタシを…

『ミサトさん、今のテストの結果、どうでした?』

『は〜い! You're number one!!!』

 次の瞬間には、嬉しそうな顔をめいいっぱい浮かべて。

 そんなにアタシに勝てたのが嬉しいわけ?

 そりゃそうよね、このアタシに勝ったんだもの。

 それも、たった数ヶ月で…

 アタシのこれまでって、何だったの?

今はまだ…それでいい。

今のアタシは、前向きに強く生きれるから。

そんなことを考えなくても、一人でも生きていけるから。

だけど…いつか、それが壊れたとき…後ろを振り向いたとき…

『またどっかに行っちゃったのかな…』

 加持さんと連絡がとりたくて、何度も電話してるのに…電話は不通。

 せっかく周りもシンジが帰ってきて、少し落ち着いてきたから遊んでくれないかなって思ったんだけど…

 ふと振り向くと、隣のホームにはアイツと優等生がいて…

 アイツは嬉しそうに、優等生に話しかけてた。

『この間まで、一ヶ月もEvaに溶け込んでいたクセに…なによ、すっかりもとの鞘に納まっちゃってさ…』

 その姿が、アタシの心を掻き乱す。

『どうせ、アタシは負けたわよ…アンタなんかに…』

 あんな冴えない奴に…なんで、アタシが負けるのよっ!

 なんで、こんなに努力してきたのにっ!

 全てを捨ててここまできたのにっ!

きっとアタシは縋ろうとする。

アイツに…

だから、アタシはその時になって言おうとするけど…

きっと、言えない。

言ってしまったら、縋れなくなるから。

そして、アイツに寂しさを誤魔化す為に縋ってると思われてしまうから。

だから、そんなこと絶対に言えない。

『零号機発進、超長距離射撃用意。弐号機アスカはバックアップとして発進準備』

 そのミサトの言葉にアタシのプライドが大きく悲鳴を上げる。

『バックアップ!? 私が、零号機の!?』

『そうよ、後方に回って』

 そんなのは、認めない…

 あの日まで、アタシはただ一人のエースとして頑張ってきたのに…

 アイツに負けた上に…優等生にまで、負けたくないっ!

『冗談じゃないわよ…Eva弐号機発進します!』

 そして、命令を無視して先陣を切ったアタシに待っていたのは…

 心もプライドも…全てを奪われたアタシだった。

『なんでアンタがそこにいんのよっ!』

きっと…壊れちゃうわよね、アタシ。

分かっているのに…何にも出来ない。

今スグ言えば、そうならずにすむって…

でも、出来ない。

今のアタシはプライドで支えられてるから。

そして、アタシは壊れる。

決められたレールを進んで…

途切れた谷底に落ちていく…

〜 bottom line is that…

書イタ人:しふぉん

 アタシの目の前を警報音とともに、静かに弐号機が沈んでいく。

 その目が、アタシを責めているように…蔑んでるように見えた。

『貴様如きが、この私を操るには百年早い』

 そんなこと…言うはず無いのに…

 だけど、アタシにはそう言ってるようにしか感じられなかった。

 悔しい…

 今まで全てを賭けてきたのに…

「…良かったね、アスカ」

 アイツの馬鹿声。

 無神経で鈍感で馬鹿で良いとこなしの冴えない男なのに…

 アタシの心に住み着いて…

「うるさいわねっ!ちっとも良くないわよ!」

「よりにもよって、あの女に助けられるなんてっ…あんな女に助けられるなんてっ…」

 この馬鹿の心を独り占めしてる女なんかに…

 アタシがどんなに縋ろうと思ってたか…

 それを、させない女なんかに…

「そんなことだったら、死んだほうがましだったわよっ!」

 声が上擦ってる…

 言いたいことの、1/10も言えてないから。

 今もアタシは心の中で、コイツに縋りついて助けてほしいって叫んでる。

 それが良いことなのか、悪いことなのか分からない。

 だけど、それを言わせないアタシがいる。

 もう一人のアタシ。

「嫌いっ!」

 そう、素直になれないアタシが嫌い。

 別のアタシがこう言う。

『素直になればいいだけじゃない、そんな簡単なことも出来ないなんて、アンタ馬鹿ね…』

 さらに、別のアタシがそれに反論する。

『今更なに言ってんのよっ! 同情されたいの!? 同情じゃ心は向いてくれないわよっ!』

 そんなこと…理解ってる。

 でも…助けてほしい。

「嫌いっ!」「でも、生きてるでしょ?」

 アタシの叫びをシンジが遮った。

 いつもと違う…呟くような声。

 なのに、アタシの叫び声を殺すのには十分な何かがあった。

「傷つけられたプライドは…10倍にして返すんでしょ?」

「アタシにはもうっ!何にもないのっ!」

 返す為にはアタシは…一番じゃなきゃ…

 もう、アタシは一番じゃない。

 よりにもよって、それを奪ったのはアンタなのよっ!? 

「そんなこと無いよ…アスカには、その体も、頭脳も…」

 言い返したいのに、言い返せない。

 シンジの言葉に…重さを感じる。

 背中に感じるシンジの視線が、アタシの喉を詰まらせる。

「なにより、命がまだあるじゃないか!」

 体があったって、頭があったって、命があったって…アタシには一番大事なものが、もう無い。

 アタシの全てを支えてくれたプライドは、残ってない。

 全てに秀でているからこそ…アタシはアタシでいられた。

 今のアタシは…抜け殻。

 女としてのアタシは日本に着く前に否定されてる。

 天才としてのアタシも、ここではただの秀才。

 パイロットとしてのアタシもコイツに否定されて。

 そして、恋する少女としてのアタシは…ファーストに…

 そう、一番大事なものを…アタシは否定された。

 だから、アタシには何も無いっ!

「同情なの!? 同情なんかでアタシにかまわないでっ!」

「・・・・・・・・」

 図星だったんだ…

 きっと、アタシの後ろで固まってる。

 声も出せずに、指先をピクピクさせながら…

 同情だったんだ…

 折角アタシに構ってくれてるのに、同情なんだ…やっぱり。

「ファーストばっかり見て、アタシを見てくれないで、それで同情じゃないって、何で言えるのよっ!」

「・・・・・・・・」

 言い返さないのが、その証拠。

 それが、アタシの心を爆発させる。

 アタシの気持ちが否定されたから…

 たとえ気付いてなくても、否定されたことは事実だしね。

「アタシの気持ちも気付きもしないで、こんな時だけ優しい言葉をかけて、アタシをどうしようって言うのよっ!」

 アタシの言葉をじっと身動きもしないで聞いてる。

 反論なんか出来るわけが無い。

 図星なんだから…

「同情なんかでアタシに優しくしないでっ! そんな気持ちなんかアタシはいらないっ!」

 コイツに応えられるわけがない。

 根性なしのコイツなんかに…

 優しいだけなんだから…

「あのさ、アスカ?」

「…なによ?」

「いいんだよ? 僕はアスカを疑ったりしないから…」

 突然、何を言い出すのか…

 不思議な奴とは思っていたけど…

「は? 何が言いたいのよ?」

 アタシを疑うってどういうことよ?

 ゆっくりとアタシに近寄る足音が響いてくる。

 いつもみたいに、オドオドとした足音じゃなくて…

 でも、静かな足音。

「だって、苦しいから頼ってるだけ…って思われたくないんでしょ?」

「・・・・・っ!」

 コイツなんかにっ!アタシの気持ちが分かるわけないっ!

 否定したい。

 アタシが辛くて縋って、耐えられなくなって…

 それを溢したときには…

 アタシは…

「もし、アスカが寂しくて僕に言ったとしても…その時の気持ちは本物だと思うから」

 アタシのすぐ真後ろに立ってる。

 声も、もう後ろからじゃなくて、上から聞こえてる。

 その詰まった距離が、アタシの心をさらに弱くさせる。

『ダメよっ!』

 もう一人のアタシがその心の動きを否定する。

『ここで言って御覧なさいよっ!アタシが少しでも離れたら辛いから言い訳だけで、ただ縋ったって言われちゃうのよっ!』

 でもシンジは…それでもって…それが、嘘じゃないって。

 そっか、今のアタシの心の声は…

 アタシのプライド…

 まだあったんだ…

 そう、そしてこの言葉は、さらにもう一人のアタシの言葉。

『アンタも怯えて過ごすことになるのよっ!同情されただけなら、同情をされなくなったら捨てられるって!』

 そして、これはアタシの怖がってる心。

 あの日、泣かないって誓った日に生まれたもう一人のアタシ。

 弱さを隠すための、強がりのアタシ。

「でも、不安になった時だけだとしても…そういう時だからこそ、僕に縋って、頼ってほしいなって…」

 頼れって言うほど、強いわけでもないのに…

 なのに、縋れ?

 どうしてそんな事が言えるのよ…

 それに、アタシの方は本物だとしても…

「アタシは…情けでなんか…優しくされたくないの… 解かってるっ!?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 なんか言いなさいよ…

 やっぱり、情けなんじゃない…

 同情なんじゃないっ!

「ちがうよ、さっきも言ったとおり…アスカを疑ったりしないから…

 それに情けで、それに応えたりしないよ…、

 そんな器用なこと…僕には出来ないから。」

 違うなら…言ってほしい。

『言うわけないじゃないっ! シンジよっ! シンジなのよっ!』

 そうよね…でも、期待してる自分も居る…

『言ってもらえれば、アンタは縋れるものね』

 そうよね、自分から言わなければ…

「僕は…アスカが…」

「まって…」

 言ってもらったら、アタシはそれを言い訳にするだけ。

 きっと、同じことを繰り返すだけ。

「アタシから言うから… だから…」

 勇気を出して、振り仰ぐと…

 アタシの大事なものがそこにあった。

Author: しふぉんさん
初出: 2005/05/22
はい、しふぉんさんから頂きました。
しふぉんさんのブログに書かれたショートショートの話の完全版です。
ショートショートの方は詩のような話だったのですが、完全版なだけに内容が濃厚になっている分、アスカの心の揺れなどがよく見えます。
それとシンジ君かっこいいこと言いますね。
これで落ちないアスカもなかなかの強情っぱり。素直じゃないですね。

そんなわけで素敵な話を書かれたしふぉんさんにご感想のメールをお願いいたします!!
WebMaster: AzusaYumi