アスカは、シンジの中学時代の日記のページを進めた。
「そういえば、ファーストは、どうしているのかしら。中学の頃、シンジが、あの娘をおかずにしていたなんて知らないわよねえ」
アスカは、同じネルフにいながら、最近顔を合わせることのない綾波レイに思いをはせた。
蒼く輝く髪と血を浮きだたせたような紅の瞳。どれだけ離れていようが、何人の人間が集まっていようが、一目で見つかる美女。
女神の嫉妬と呼ばれるアスカと並んで、月の雫と称されるレイ。二人は一人の男を愛したライバルとして、ともに命をかけた戦いをくぐり抜けた戦友として深い絆で結ばれている。
「レイなら、シンジがおかずにしても許せる………わけないでしょうがあぁ」
アスカが吠えた。
使徒戦役の後半、2016年春頃からシンジとアスカの仲は険悪になっていった。特にシンジがアスカのシンクロ率を抜いてからは酷かった。
アスカのトラウマは、淡い恋心を霧散させて攻撃に転じ、シンジは自分に向けられた敵意から逃げることだけしか考えず、二人の関係は崩れ去る。
それは、世界の破滅の始まりであった。
サードインパクトの後、国連に保護という名目で拘束された惣流・アスカ・ラングレーと碇シンジは、二人きりで一つの病室に監禁されていた。
「査問委員会が開かれる。でなさい、碇シンジ」
アスカが意識を取り戻して三日目、病室を国連軍警務隊の制服に身を固めた男が訪れた。
「アタシは、行かなくて良いの? 」
アスカはシンジだけが連れて行かれることに不満を覚えていた。自分の知らないところで話が進んでいくことに不安を増長させた。
「惣流・アスカ・ラングレー。君に対する査問は、碇シンジの後だ。待機していなさい」
警務官が冷たく突き放す。
「じゃ、アスカ。ちょっと行ってくる」
「もう、帰ってこなくて良いわよ。そのまま出ていって」
アスカは布団をかぶりながら喚いた。
シンジが、悲しそうな顔を一瞬浮かべた。
国連のシンジに対する査問は、5日間におよんだ。
毎日朝9時に呼びだされ、夕方6時に病室に戻される。
「一体、どんな話をしているのよ」
沈黙に耐えかねたアスカが問うた。
「使徒は本当に人類の敵だったのかって、聞かれたよ」
シンジが笑う。
「馬鹿じゃないの。あんな化け物が敵でなければ、なんだっていうのよ」
アスカは、開いた口がふさがらない。
「言ったろ、リリスに向かう使徒では、インパクトは起こらないって。だったら、放置していたらよかったんじゃないかって考える人間が出てきてもおかしくないよ」
「それはそうだけど」
「エヴァで倒さなければ、使徒は最初の一体だけで済んだかもしれない。使徒は、一体が滅びて初めて次が生まれるからね」
「そんな保証は何処にもないじゃない」
アスカが、鼻先で笑った。
「戦いの本当の怖さは、前線にいたものにしかわからないさ。彼らは、使徒戦役の間中、ロッキー山脈の地下深くに潜っていたんだよ」
「14歳の子供に命をかけさせて、自分たちはインパクトが起こっても生き延びられるシェルター中にいたってわけ? 」
アスカはあきれた。
「そう。サードインパクトの正体が、アンチATフィールドによる地球生命のリセットと報されてなかったんだろうね。知っていれば、必死に手伝ってくれたはずだよ」
シンジもあざ笑う。
「ふん、真実さえ知らされていなかった小者が、エヴァのパイロットを責めたてているのか。お笑いぐさだわ」
アスカが、冷たい声で言う。
「だから、国連は、エヴァのパイロットは不要だったんじゃないかって言うんだよ。エヴァを使徒にぶつけなければよかったんじゃないかとね」
シンジが、寂しそうにしゃべる。
「じゃ、なにもしなかった方がよかったって言うの? アタシの死ぬような思いは無駄だったの? 」
アスカが、見えない左目からも涙を流す。
シンジが、手にしたガーゼでアスカの涙を拭う。
「触らないで」
アスカがシンジを払いのけようとするが、右手に力が入らず、受け流されてしまう。
「無駄じゃないよ。最後の戦いのとき、アスカが頑張ってくれたから、僕は初号機に乗れた。でなければ、アスカの弐号機をよりしろにサードインパクトが行われた」
シンジは、暴れようとするアスカを軽く抑えながら言った。
「アタシをよりしろに? 」
「そう。弐号機はアダムのコピーなんだ。エヴァ量産機は、アスカの弐号機を喰らうことでアダムを取りこみ、サードインパクトを起こそうとした。ただ、その前に僕が現れた。それで人類補完計画は父さんの思惑どおりに形を変えた。もし、あの時アスカが戦ってくれていなければ、もっと早くにサードインパクトは起こったはずだ。ゼーレの思い通りのね」
「それって、どんな計画なのよ? 」
アスカは訊いた。
「群体の使徒であった人を一つにして、完全たる使徒を産み出し、そこからあらたな生命体を作り出す。ゼーレのメンバーは、その時創造主、神として、地球に君臨する。馬鹿だよね。自分たちだけは群体のまま生き残れると思いこんでいたらしい」
シンジが、力のない笑いを浮かべる。
「…………」
アスカは、初めて知った人類補完計画と自分たちチルドレンの真の存在意義に絶句していた。
「もし、そうなっていたら、今頃、僕たちはどろどろに溶けて一緒になっていたかもね。アスカのその瞳も髪も僕のなかに入っていたかも知れない」
シンジが、じっとアスカを見つめた。
「きもちわるいこと言うな」
アスカは、シンジの顔に唾を吐きかけた。
それを拭きもせずに、シンジが続ける。
「でも、アスカが殺されるよりも辛い思いで戦ってくれたから、綾波がリリスに戻る時間が稼げた」
「ファーストが、リリスって、どういうことなのよ」
アスカは、わめいた。ここでもアスカが知らないことがあった。
「全部話すから。もう、逃げないよ。アスカから」
シンジがアスカのつぶされた左目を見つめる。
アスカは、シンジの頬を伝わっていく自分の唾が、シンジを侵していくかのように見えて、思わず歓喜に震えた。
「アタシの唾がシンジに取り憑いたとき、初めてシンジはアタシのものだって思ったのよねえ」
アスカは、ちょっとだけ冷静になる。
「初めてのキスのときは、唇を押し当てあっただけで、口の中に触れてなかった。あんなの今から思えば、キスじゃなくて握手だったわ。一時接触に比べたら、ミサトやレイを見るぐらいどうってことないわ」
アスカは、日記に目を据えた。
「行くわよ、アスカ」
碇シンジの日記
2015年8月13日
今日から学校へ行った。第三東京市立第一中学校の二年A組に転入することになった。
でも、クラスには、空席が目立っていた。そりゃあそうだよなあ。あんなことがあったんじゃ、怖くて住んでいられないよね。
クラスに残っているのは、みんなネルフ関係の子供らしい。
なんだか、一人、プラモデルの戦闘機を手に持って「ブウウウン」とか言いながら遊んでいるのがいた。相田ケンスケというらしい。変なやつ。関わりにならない方が良いんだろうなあ。
同じクラスに綾波レイさんがいた。うれしい。
ネルフに行っても訓練の時間とかが、違うからなかなか会えないんだ。
変わった髪の毛と瞳の色と無口なことと、なにを考えているのかわからないことと、物を見るような冷たい視線さえ、我慢すればアイドル顔負けの美少女だもの。綾波さんが彼女になってくれれば……楽しい……かな?
会話が続かないかもしれない。
そうそう、僕にも声をかけてくれる人がいたんだ。
クラスの委員長をやっている洞木ヒカリさんっていうんだけど、綾波さんとは違って黒い髪をお下げにして、ちょっと頬にそばかすがあるけど、可愛いんだ。
僕が転校してきて話しかけてくれる人もなく、ぼうっと座っていたら、わざわざ声をかけてくれたんだ。
「困ったことがあったら、いつでも言ってね」って。
そのとき洞木さんの吐息が、頬に触れてくすぐったかった。なにより、制服のブラウスの襟ぐりの隙間から、し、白いブラジャーが見えたんだ。
ちょっとは、学校生活が楽しめるかも。
2015年9月9日
二つ目の使徒、烏賊みたいなやつが来たり、ケンスケとトウジが、僕の邪魔をしたりして、大変な日が続いたので日記が書けなかった。仕方ないね。
やっぱり、ケンスケと知りあったのは、僕の人生の汚点だ。
戦闘中にのこのこ見学に出てきた二人のせいで、生まれて始めて独房というのに入れられることになっちゃった。
一人でいるのも、閉じこめられているのも、慣れているから気にならなかったけど、監視カメラがあって……できなかったのが辛かった。
僕ってひょっとして、スケベすぎるのかな。
今日は、体育があった。セカンドインパクトで日本は南国になったというのに、男はグラウンドを走らされた。女子はプール。男女差別だ。女に生まれてればよかった。
女だったら、エヴァに乗らなくて済んだかもしれない。
うらやましくてプールをじっと見ていたら、トウジとケンスケにからかわれた。
「綾波の胸、綾波のふともも、綾波のふくらはぎ」だってさ。
そりゃあ、確かに綾波さんのスクール水着姿も良いけど、僕は、もっと身体の線がはっきりするプラグスーツ姿を見ているんだよ。ふふん、君たちには、絶対見せてあげないけどね。
でもね、僕が見ていたのは、綾波さんじゃないんだよ。
洞木さんなんだ。彼女、着やせするらしくて、意外と大きいんだ。もちろん、ミサトさんとは比べることもできないけど。
でも、ちょうど僕の手のひらにすっぽりと入りそうで……。
あの洞木さんのむ、胸を思い切り掴んでみたい。
「碇くん、あなたが、この町を、いえ、わたしの命を守ってくれたのね」
洞木さんが、感謝のまなざしで僕を見る。
「当然のことをしたまでだよ。洞木さんが気にすることじゃない」
「洞木さんなんて、他人行儀に呼ばないで。ヒカリって呼んで。ねえ、碇くん、戦いで怪我したんでしょ? 」
洞木さんの目が潤んでいる。
「エヴァにはフィードバックというものがあって、エヴァの受けた傷みが僕に伝わるだけ。怪我じゃないよ」
「それでも、わたし心配なの。碇くんが大怪我するんじゃないかって」
「大丈夫だよ」
「ねえ、こんなことを言うと、はしたない娘と思うでしょうけど、わたし、碇くんのことが好きなの。ねえ。碇くんをわたしに刻んで」
「洞木さん……」
「ヒカリって呼んで、おねがい」
洞木さんが、僕に身体を預ける。
「ヒカリ……いいのかい」
「わたしをあげる。碇くんの好きに……」
僕は、キスでヒカリの言葉を封じた。綾波さんともミサトさんとも違う唇の感触。唾液の味も違う気がする。
ミサトさんは、たばこの味、綾波さんは、薬の味、洞木さんは、鰹だしの味。
ねちゃねちゃと二人の口が音をたてている。僕は、震える手で洞木さんのブラウスのボタンを外した。とたんに、洞木さんの匂いが溢れるように僕を包む。
「はあっ」
ブラジャーを外したときに、洞木さんがため息をついた。
僕は、洞木さんを床に横たえると、キスをやめて首筋から舌で舐めていく。
「碇くん……初めてなの、優しくして」
洞木さんが小さく震えている。
「任せて」
僕の舌が、洞木さんの乳房のいただきに到達する。
「あああっ」
洞木さんが、ひときわ高い声をあげた。
音をたてて僕は、吸い、こね回し、そして口に含んだ。
甘い少女の乳房の味が、口いっぱいに拡がる。洞木さんの乳首が堅くなった。
「碇くん、碇くん、碇くん」
洞木さんが、譫言のように僕の名前を呼んでくれる。
僕は、右手で洞木さんの左の乳房を揉み、左手で右の乳房を尖らせるようにして、乳首を舐めあげた。
「うっ………」
僕って最低だ。親切にしてくれる委員長を汚すなんて。
アスカの手が、強く日記を握りしめる。
「シンジ、アンタはファーストだけじゃなく、ヒカリまで毒牙にかけていたのね。ゆ、許せない。恋人の親友に手を出すなんて………殺すつもりだったけど、やめたわ。アンタは、生かさず殺さずで一生、いじめぬいてやる」
アスカの顔が、鬼になった。
「ところで、アタシの唾液って、なんの味がするのかしら? 」
アスカは、自分の口の中で舌を蠢かした。