月が変わって新しいシフトが発表になったとき、二人は小躍りしたいのをやっと我慢した。
今月の第2wはアスカもシンジもそろって準待機の日があったからだ。
使徒に対しては常に2機で当たることになっていた為、そんなことはまず無いはずだった。
ところが、だ。
零号機のレイが、大怪我の後遺症検査のため、2週間あまり続けて待機を外れたのだった。
レイはすまながって、その分待機を代わると申し出た。さすがにずっと待機を続けることは問題がある。
体力的にも疲労が溜まりすぎる事はよくない。
だがレイの気がすまないという点も考慮し、数日だけレイ1人で待機という日をミサトが設けたのだ。
ただし、この本部へ20分以内に戻れる範囲にいなければならない、という制限つきだった。
それでも二人はこの『振って湧いたデート日和』を十分に活用することにした。

「海海っ!断然海に行くからね!それでいいでしょっ。そうと決まれば買い物よっ!」

初日はまず買い物と甘味屋巡りで、一瞬にして消えた。
そして二日目。
朝から、空は抜けるような青。真っ白な入道雲がアスカの意欲そのままにむくむくと立ち上がっていた。

雪の思い Two of us #5 前半

こめどころ

 昔、大変な大震災が世界中を襲った。そのことはアスカもシンジも学校で習って知っている。

関東でも相模湾や駿河湾、東京湾鹿島灘辺りも大規模に押し寄せた津波によって、沿岸都市は浚われ水没。
現在諸都市は水没した元の海岸線からかなり下がった位置にあり、元の臨海地区は漁礁と化している。
今と昔の地図はまるで海岸線の形が違うし、千葉は陸続きだったと聞く。
立て続いた地震地殻変動の為に山の小さな砂防ダムや半ば堆積土砂に埋もれていた巨大ダムも失われた。
その為、河の水量が増え、山の土砂がそのまま海に入るようになった。それで砂の供給が増加したこともある。
第3新東京市周辺の海も相模湾から伊豆半島の浜辺も同様。
現在、江戸時代の絵草子に描かれているような豊かな水量の河川と白砂の海岸線が続いている。

「綺麗な海よねぇ。ドイツは寒い国だったし、アメリカは大陸のど真ん中だったから海って初めて。」

海にやってきた2人は歓声を上げてひとしきり海を独占し、泳いだり潜ったりを楽しんだ。

「僕も久しぶりだよ。こんな広い砂浜は初めて見たなあ。」

「ね、後ろ気づいてる?こんなところにまでついてこなくてもいいのに、もう。」

砂浜の曲線に沿って、視界ぎりぎりの処から護衛と監視を兼ねた男達が見え隠れする。

「久しぶりで2人だけになれると思ったのに、ぶち壊しよ。」

「あの人たちだって仕事なんだからしょうがないよ。」

そうは言っても、せっかくの休みで出かけてきたのに、と残念なのはシンジも同じだった。
こうやって自分が手を出せないときに限ってアスカは際どい水着なんか着てくるんだからなおさらだ。

――大体パーティーでも何でも、女の子は男どもが手を出せないようにしておいてちらちらさせるんだよな。
殆ど逆恨み。準待機とは言えパイロットにもしもの事があってからではどうしようもない。
これを恨まれるのだから護衛とは因果な商売だ。自分の妹か弟のような子どもの為に休日も睡眠も返上してるというのに。
ここから砂丘を一つ越えた場所には万が一のための猛々しい攻撃ヘリまで控えているのだ。

だが、せめてデートの時くらい監視を緩めて欲しいと思うのはアスカシンジにとっては偽らざるところ。
これもしょうがないことだった。

「大災害からまだ17−8年くらいなんでしょ。自然の復元力は凄いよ。」

「まぁね。元々人間が大きな顔をしすぎてたのよ。
文明化があまり進んでいなかった国ほど被害が少なかったっていうのは、まさに皮肉よね。」

「堤防がなければそれに頼って海面下の低い土地や洪水多発地区に住むことはなかったってこと?」

「そういうこと。文明に頼りすぎていたから必要以上に犠牲者が増えたわけでしょ。」

津波や地震から何とか生き延びても、水道がなくなり、雨水やたまり溜まり水、ちょっと古くなった
食べ物を口にした人々は、すぐに中毒や感染症を起こし、ばたばたと死んで行ったと聞かされていた。
特に日本では当時抗菌とか殺菌が徹底し流行していて、免疫機構が緩み、必要以上に食中毒などで亡くなった人々がでた。
単に体力不足で亡くなった人も多かったし、絶望によるストレスだけで亡くなった者も多かったと聞く。
亡くなった方には酷だが、人間という種としてみれば人類は正しい方向に進んではいなかったと言わざるを得ない。

「日本の死者数は突出していたけれど、他の文明国も似たり寄ったりだったわよね。」

「僕らだって…よく生き抜けたものだと思うよ。まだ生まれたばかりの頃だったわけだからね。」

「そうね…そのことだけはパパとママに感謝しなくてはならないわ。人口年齢別カーブを見れば、
わたし達とそのあと5年以上後まで他の世代の約半分もない生存率だったわけだから。いいとこ2割よね。」

「それでも、僕らは生抜いた。誰かが守ってくれたから。」

「あんた馬鹿ぁ?パパとママが守ってくれたに決まってるじゃない。必死だったと思うわよ。」

ここまで二人で乗り付けたランクルを背中に停めて、ターフを撒き出し、その両横に傾けたビーチパラソルを2本。
上手く直射日光と監視の視野はさえぎられ、安心してアスカは仰向けに転がった。
白い身体の曲線は血気盛んな男の子には全く目のやり場に困る存在だ。
アスカのラインは、シンジには視神経から脳に直接突き刺さってくるナイフのようなもの。
その刺激はすぐに下半身に駆け下って…まずいよぅ。
アスカはそんなシンジの事情を知ってか知らずか分からないが、さらに伸びをした。

「ん〜。」

シンジは目のやり場に困り、鼓動を高ぶらせながら水平線の彼方の入道雲の行列を眺めるしかなかったわけで。

―――なぜあんなふうに綺麗に一列に並ぶんだろう。前線か何かに沿って並んでいるんだろうか。

「シンジ、あなたね。」

「え?」

思わず振り向く。

「仮にもわたし達は、親しい男女関係という奴にあるわけでしょ。」

「し、親しい男女関係って、そんな怪しい言い方、」

「少なくとも、キスしたり抱きしめ合ったりは、したわけよね。そうでしょ?」

「う、うう。」

その時のことを思い出すと胸が高鳴るのはしょうがない。

「普通の日本の高校生のお付き合いとしては、こういう関係を何ていうか知ってる?」

「えっと――ガールフレンド?」

「何トホホな事言ってるのよ。外国じゃキスなんて日常茶飯事でしょうけどここは日本よ?」

「じゃ、じゃあ。…恋人?…でもまだそこまではふさわしくないような気がする。」

「なに、それ?何かあたしに不満でもあるわけ?」

いじけた気持ちが体を小さく猫背にさせる。

一体あの凛々しいシンジはどこ行ったのよ!

むくっと起き上がるアスカ。
その今はアイスブルーに見える目を見ただけでシンジはごめんなさいと言いたくなった。

「そ、そうじゃない。僕がアスカにだよ。」

「随分卑屈な態度じゃない。」

アスカの水着

そう言って真っ直ぐ正面から険しい視線をぶつけてくる。
あのお寺だらけの街にいたときのアスカとは随分イメージが違うよな、と思う。
綺麗な刺繍を施されたビキニの水着は、ほとんど全身の素肌をくまなく曝しているに等しい程しか布地がない。
深い大胆なカット、目も眩むような胸や腰のライン。
誰がこんなカットの水着を考えたんだよ。これで我慢しろっていうのは酷だよ。
第一シチュエーションが最悪だ。(見方によっては最良なんだけど。)
シンジの頭の中をそんな考えが渦まく。

浜辺に着き、海に駆け入る時にミニスカートとシャツ、靴下とサンダルを次々と脱ぎ捨てて走っていったアスカ。
ミニスカートを脱ぎ捨てた時なんか心臓が爆発しそうになった。
シャツを脱いだ時の顔だけが隠れた一瞬に見た胸は、爆発どころか内蔵が全部飛び出したかと思った。
感情と劣情をこらえすぎて立ちくらみがした。
シャツを脱ぎ捨てた後、アスカはシンジに笑いかけた。それは明らかに男の子をからかっている笑顔で。
そのコケティッシュに感じられた笑顔がまたシンジの胸を鉄の太い鏃のように射抜いた。

模擬戦の後での抱擁を忘れるはずもなかったが、あの後の2人は中々一緒にすごす時間がなかった。
アスカは最前線の実戦パイロットであり、シンジは未だに見習いパイロットに過ぎない。
ブリーフィングに参加したときに顔を見れる程度だ。おまけに他の士官達も大勢いる。
実戦士官と見習士官では、勤務時間も待機のローテーションも、食事の場所も違う。
せいぜいブリーフィングの後、たまに自動販売機コーナーで飲み物を探す間の立ち話程度。
それも他の士官達にアスカが取り囲まれるまでの一瞬だけ。アスカに話しかけたい青年は幾らでもいる。
見習いのシンジは、すぐに人の壁の外に弾き出されてしまう。

――― 一刻も早く実戦パイロットに昇格したい。

シンジの頭にはそのことしかなかった。

――― そして、アスカの負担を少しでも減らし、一緒に戦い、アスカをフォローしたい。今のままじゃ。

ほんの1週間前、使徒が再び現れた。
こんども最初の想定とは違い、山深い糸魚川構造線の奥に、やはり大規模地震と噴火を伴って出現。
アスカと、そしてシンジが初めて使徒と対戦し、危ないところでやっと使徒の殲滅に成功した。
だが使徒の損害のほとんどはアスカが与えたものであった。
シンジは、アスカのサポートの下で最後のとどめを刺しただけと言っていい。
実戦に出たとしても、今のレベルでは足手まといになるだけだと言う結果だったのだ。
思いだけでは人は強くなれない。幾らシンクロ率が高くなっても現実の自分が反映されるだけだ。
初号機を強くしたいなら、現実の自分が強くならねば意味はない。
一定レベルまではEVAの基礎性能が反映されるが、そこから先は現実の自分の能力がものをいう。
シンジは毎日熱心に体を鍛え、武道や体術の訓練を繰り返した。

「シンジくん、ものすごい頑張りようね。」

士官用食堂にめったに顔を出さないミサトが、珍しく飲み物を前に窓辺の席に座っている。
それを見つけたリツコがその席の正面に立った。

「私が螺子を巻いているわけじゃないのよぅ〜、リツコ。」

「わかってるわ。アスカでしょ。その話で私の食事時間にわざわざ顔を出したわけ?」

「そういうこと。あの年頃の恋愛は互いを育てあう、いいことよね。見ててこそばゆいけど。」

「シンジくんにとってアスカは至高の位置にいる崇拝の対象。アスカにとってのシンジくんもまたそういう存在。
まぁ、普段のアスカの様子を見てるとそんな風にはとても見えないけど。」

席についてクラブサンドのラップを皿からはがすリツコ。
シンジの頑張りは見ていて痛々しいほどだったが、その顔は充実に輝いていたので何も言えなかった。
今はあれでいいのだと思う。アスカもシンジを指導する過程で高所から判断を下す習慣が身についてきた。

特別に出してもらったコーヒーの香りがミサトの鼻に届いた。

「随分古風な恋愛観って気もするけど、憧憬抜きの恋愛なんて野合も一緒で意義がないわ。」

「だから、たまにはその恋愛を育んであげる必要もあると思うのよね〜。ま、最後にやるこたぁ一緒でもさ。」

「あなた幾らなんでもそれは親父満杯よ。」

顔をしかめてリツコは言う。

「それが2人を浜辺に出してあげた理由なの?随分理解があること。
だけどEVAパイロットに産休を取らせるゆとりはないって事、忘れないで頂戴よ。」

白衣の科学者はカップを口にしながら釘を刺す。

「あの子にはどうせ除放ピルのペレットを毎月処置してるんでしょ。」

「3ヶ月に一度のね。EVAパイロットが生理で辛くて後れを取ったなんて冗談にもならないでしょ。
それに、生理はシンクロ率に影響しないけど、恋愛感情の方はエヴァのシンクロに影響しそうな気がしてるのよ。」

「そんなことEVA運用の設定にはなかったでしょうからね。私は今見てる限りいい方向に行くと思うけど。」

「それはあなたの直感でしょ。だからデートの後でのシンクロ率、計らせてもらうわよ。」

「あんたも研究のことになると鬼よねえ。」

「お互い様でしょ。満足しちゃうと下がるって可能性だってあるんだから。」

「ま、たしかに子どもを作るような行為と、まともな作曲をする能力は両立しないってモーツァルトも言ってたわよね。」

「それってショパンじゃなかったかしら。」

「細かいこと言わない!要は、すべからくエネルギーの出所は一緒ってこと。圧を上げておいて活用すればいいのよ。」

二人は艶然と微笑んだ。彼女らが頑張れるのも男日照りのせいなのだろうか。

ふがいない自分を意識するたび、唇を噛み締める。
強くなりたい。もっとシンクロ率を上げてエヴァを動かしたい。
目の前にあるアスカの魅力的な肢体に心が揺れ動かされても、そのことを考えると醒めてしまうシンジだった。
根っから真面目なのか野暮天というべきか。それがシンジという男なんだからしょうがないとアスカにはわかっている。

「シンジ、行きましょ。今日はくだらない事なんか何もかも忘れてさ。」

「うん。そうだよね。」

そう言って男の子も立ち上がる。アスカに渡されるまま、ゴーグルとシュノーケルを被り、足ヒレをつけ、海に体を浸す。
海の中は白い砂地が続き、その途中からは風になびくよう草原のように一面の海草が広がっている。
砂地は波の形に模様を描き、水面を見上げると光の輝きが眩しく揺らめいている。体をくねらせて先行するアスカ。
その海草の中から小魚の群れが湧き上がるように溢れ、2人の正面を横切ったり、銀色の群れの中に呑み込んだりする。
身をすくめてそれをやり過ごし、その姿を愛し気に見守った後、シンジはアスカと手を取りあって、再び泳ぎだした。

海の中でのキス。互いに回転する姿を抱きしめ、どこと言わず頬を押し付け、唇を押し当てた。
美しい青い文様が少女の体に描かれる。その姿を追って泳ぎ続ける。まるで若い雌鹿を追う雄鹿のように。
アスカは時々シンジを振り返る。ちゃんと付いてきてるかどうか、確認してるんだ。
そのたび、少しずつ身体が熱くなる。冷たい海中にいるのに、身体の奥から熱を発する塊が震えながら込み上げる。
水面に突き出たシュノーケルから吐き出される息が熱くなっていく。身体が芯から溶け出したように。
そんな風に泳ぎ回って浅瀬に戻り、膝を突くようにして浜辺の波の中から現れる2人。

「え、なに。」

その波打ち際で肘を引かれた。振り返ると目の前に金と青があって、それはすぐに泡立つ波に隠れた。
シンジは泡のはぜる音と一緒に柔らかな温かいものに唇を塞がれた。
首に巻かれた腕に力が入ったと思った途端、波の中に倒されていた。波にもまれながら女の子を抱き返すシンジ。
その白い喉、なまめく襟足。小さな水着を着た身体はシンジの唇を拒まない。体を仰け反らせて、シンジを受け入れてくれている。
もちろん一瞬だって唇を離しはしない。アスカのゴーグルを前髪の上に押し上げると、彼女がシンジのゴーグルを押し上げた。

『アスカ。』

『シンジ。』

声に出さないのに、心に響いている。美しい青い瞳と青い海と空に包まれて自分も青く染まったような錯覚を覚える。
腰に手を回すといつもあこがれて止まないアスカの素肌との細い曲線が腕の中にあった。
それはアスカにしたって同じことで、昔コタツの脇で交わした初めてのキスのときよりずっと逞しくなったと思える腕と肩。
圧倒されるような男の子の胸。そんなものに目が眩みそうな思いが湧きあがった。
波の中で絡み合って引く波の跡に取り残される。そうして少しずつ浜にうち上げられる。
もう何も考えず、互いの身体を求め合っていることを隠そうという思いも、羞恥も監視の目もお互い以外の何もかもが消えていた。
浅瀬で弾けて睦み会う魚のように、濡れた身体が日射しの下で何時までも光っていた。
若者らしい激情を抑え切れない。駄目だ、我慢できないよ、とシンジは思う。
その目の強い輝きの意味。その意味をアスカも本能的に悟っていた。次第にこらえきれなくなる熱情。

「アスカっ。」

シンジの切なげな声、その視線は強い光だ、と思う。
自分はこの光に手繰り寄せられてる。それを拒めないんだもの、と思うのは言い分け?だろうか。
だめだ、拒めない。もうつかまっちゃった、と思う。
また抱きしめられた。息がつまるのがこんなに甘く感じられる。身体の奥で何かが波打ってる。打ち寄せてる。
あたしの中にもある海が、シンジに呼応してるよう。ママもおばあちゃんも、みんなこんな思いをしたの?
こんなに激しく逆巻くものを身体の中に感じた?

シンジは美しい水着の中に手をくぐらせ、直接アスカの乳房に触れている。痛みはないが、覆うようにして撫でている。
アスカは緊張で不安げな笑みを頬に浮かべてしまう。そして自分の手もシンジの胸に押し当てられ、そこにキスをする。

わたしの――わたしの胸に、シンジが直接触れている。吐き出す息が炎のようになっているのにシンジは気づいただろうか。
まるで、そのことを期待しているように、熱く燃え上がった身体を知られていないだろうか。
もし、こんなになっていることを知られたなら。

「もう、舌噛んで死んじゃう。」

その言葉がアスカの意思と関係なく呟かれた瞬間。
浜辺全体に、緊急避難指示のサイレンが鳴り響き、波の音も聞こえないほどの音量で何かを叫んだ。

「な…何?」

霞んだ様になった脳に、その意味が伝わるのに数秒を要した。抱き締めあって一体になっていた身体が2つに分離した。
反射的に身体を起き上がらせた。目と目が失望と緊張に複雑な色を示すがそれも一瞬のことだった。
ヘリの激しいローター音が、砂丘を越えて浜辺に舞い降り、既にその時、2人の表情には甘さは欠片ほども残っていなかった―――

「お急ぎくださいっ!」

そのままの格好で次々とヘリにすばやく乗りこんだ。戦闘ヘリだからひどく中は狭い。
後部座席に、大判のタオルに包(くる)まり、固定ベルトを装着。爆音に甲高い金属音が混じりローターの回転数が上がる。
浜辺にランクルとビーチパラソルを残したまま、一気に攻撃ヘリは空を斜めに切り裂いて舞い上がり、基地に向かった。
今日の記憶は、互いの体に付いた僅かばかりの唇の跡だけ。

「あそこだっ!」

哨戒ヘリのパイロットが叫ぶ。
青い大海原の中のほんの一点だから見えたともいえる、単純な航跡だった。風が出てきたのか、直後一斉に波頭が立ち始め、
その点は群れの中に消えた。だが既にもう存在を捉えた後だ。その波頭の周囲にソノブイを投下、位置を精査した。
上空を、2度。いや3度旋回しただろうか。第一回のミサイル群れがすぐに殺到した。
高さ数百mに上る巨大な水しぶきが数十個も上がったと思った瞬間、水中から飛び出した小型のミサイルのようなものが
これも群れとなって同じ場所にやはり巨大な水柱を築き上げた。

「くそっ、ぜんぜん効いていないぞ!アスロックもだめだっ。」

「もっと肉薄させるか、N2を使うのか。」

国連軍の将官たちが慌てふためく中、ミサトの指示がネルフ側に流れる。

「事は急を要すわ。位置確認と一次攻撃は済んだ。パイロットはまだっ?」

「既に本部直上まで戻っています。ヘリポート到着まであと3分ほど。」

「エヴァすたんばってる?」

「初号、弐号ともにオールグリーン。充電正副ともに終了しています。兵装ビル準備OK。武器充填確認。」

「零号機、搭乗員、機体ともにいつでも出せます。」

国連軍および戦略自衛隊の総合司令部は再び攻撃を開始しようとしていた。

「地磁気数値急上昇中。小田原沖500mにマグマ噴出予報出ています。」

「海中の使徒は既に旧真鶴海中都市群から上陸の構え。」

「陸上ミサイル群1,2,3番準備良し。」

「短SUMに迎撃準備良し。高空爆撃上がっています。」

「上陸と同時に集中砲火開始。」

死闘が開始された。

N2爆弾の執拗な攻撃までもが繰り返されたが、使徒の進行を数時間とどめるだけに終った。
地は炎と高温に嘗め尽くされ、いくつかの都市が火中に消え去った。
国連、自衛隊ともに、この地区に投入された戦力の7割近くを失った。もう、支えきれない。
ついにネルフが指揮権を委譲される時が来たのだった。

再び水中爆発。小田原沖僅か500mで、火柱が上がった。
呼応するように真鶴から上陸した使徒はまっすぐに箱根を目指す。最終防衛線でネルフの準備したガンマ線砲が待ち構えている。

「さて、通常兵器があれに通ずるものかどうか、しっかり認識してもらえたことだろう。N2とて同じ結果だった。」

「此方の準備も整った。アスカくんとシンジくんも準備完了だ。」

「さて、国連軍の前でのお披露目といこう。」

「レイ、アスカ、シンジくん。出撃するわよっ!」

雪の思い Two of us #5 前半    2006-05-14 komedokoro

Author: こめどころさん
初出: 2006/05/15
はい、こめどころさんより雪の思いの五話前半でした。
わーい。今回こそ最終回ーのはずが、見事に終わらせられませんでしたーー
というのも、予定より長くなってしまわれたのと、忙殺されておいでだったのとでお話が伸びてしまわれてるそうです。

サービスは程よくよろしくてイイですねー。
ただ、不穏な動きもありますが。
何だかリツコさんが冷戦時代の北欧諸国みたいな事をしてますね。(除放ピルのペレットを毎月処置)
十代の子に病気でもないのに薬を出すのはあまり好ましい事ではありませんよー?
まぁ、シンジ君の暴走が見え隠れしているので、大人子供どっちもどっちですが。
それにしても、週刊少年誌的な引きの終わりですね。
とにかくありがとうございます、こめどころさん。次回サービス楽しみにしております!(笑)

このお話を書かれたこめどころさんに、是非ご感想を。
こめどころさんのサイトはこちら。"アスカの旗の下に"
WebMaster: AzusaYumi