赤いファミリーカーが猛然と走ってきてコインランドリーの前に派手な音を立てて停車した。
中から飛び出して来て、まるでサンタクロースのように大きなゴミ袋を担ぎ出したのは、誰あろうあのアスカ・ラングレーであった。
「ああっ!大きなのが空いてない!」
そこにはほんの僅かな洗濯物が残されているに過ぎなかった。
おそらくこの洗濯物の持ち主がコインランドリーに来たときは小さな方が一杯になっていたのだろう。
一瞬ためらった後、アスカはその男物の下着類をどんどんつかみ出して乾いたものを出すトレーの上に積み重ねた。
代わりに自分の洗濯物をつめこむ。大型30kgのランドリーを3つ占領したのである。
この一週間雨とネルフの雑用に追いまくられて洗濯物を干せなかったのだ。
但しそれはあくまで公的理由であり、水曜にも金曜にもそのチャンスはあったのだが、飲みに行ったり寝坊したり。
なに、要はサボり倒したのである。
急がねば、命の限り急がねば〜〜〜ッ!!
明日はシンジが帰ってくる日だ。これはやばい。これではまた出張帰りのシンジに家事を強いることになる。
何より先週「洗濯?軽い軽いこのアスカ様にまっかせなさぁ〜いっ!」と大見得を切った手前みっともないこと夥しい。
元々今回こんなに洗濯物が多いのは先々週どうしてもと頼んで夕食の当番を引き受けて、アブラ汚れのひどい服を大量に出したせいである。
何で、このめんどくさがりがそんな要望をしたか。つまり、これもシンジにいいとこを見せたかったというだけの理由である。
その上、毎日夕食を作ったはいいが、夜中の11時に完成したり、妙に脂ぎったものになったり、焦げがやや多かったり(自己評価)。
はっきり言って食えたものではなかったのだ(客観評価)。
「そんなことないわよ、金曜日の湯豆腐は美味しい美味しいって食べてくれたんだから。」
お湯を沸かし、昆布を敷く豆腐を半丁に切っていれる。これも料理と言えなくもないが。
「うっさいわねえっ!」
挙句が洗濯物の山。しかも一週間、シンジの出張で反省恐縮の思いは
一日も持たずに霧散消霞してしまったのだった。
3回洗っても落ちない洗濯物に業を煮やしたアスカはネルフ工房から
超音波発生版と微細粒子噴出装置を強奪し、マンションの屋上で
がんがんと洗濯機をぶっ叩いて改良し、さらに回転速度を3倍に強化。
恐ろしいほどの泡が洗濯槽から溢れ、洗濯機が見えなくなってしまう程であった。
アブラ汚れは綺麗に落ちて真っ白!この辺りは優秀なんだよな、この子。
アブラ汚れの後は、シンジのカッターやズボン、二人の下着なども洗う。
ちょっと生地が痛んだかもしれないが、そっちもうまく洗えたのだった。しかし。
「さぁ、後は乾かすだけ」
と思ったときにはもはや時間がなかった。自宅の乾燥機の容量では処理しきれない。
ミサトを嫁に出した時に新しい「新婚さん向け」のものに
買い換えてしまったのだ。未だ結婚してはいないが、これはヒットだったと思っている。
なにせその乾燥機にはでかでかと『新婚さん用の乾燥機です』って大文字のシールが張ってあったのだから。
しかし、そんな娘心がシンジに伝わるわけもなかった。がっくし!
乾燥機はやや詰め込みすぎ。ごーんごーんと音を立て、苦しそうに回っている。
エプロンや、セーターや、カッターシャツやスカートや、靴下。
「シンジ」のパンツと「あたし」のショーツやブラやなんかが、渾然一体となって回っている。
「なんであたしって、こういう女らしいことが上手くできないんだろうなぁ。」
呟くと悲しくなってきた。
「パンツ同士はあんなに仲良いのに、中身のほうは遠ざかるばかりだわ。もう。」
ちょっときわどい発言。
いや、ちゃんと類別して洗ったり乾かしたりしないからだと思うんだけど。
つまり段取りがわるいというだけなんだけどね。それは経験だから、いつもするようになればすぐ上手くなるんだよ。
お米を研がないで炊いたとか、お味噌の適量が分からなくて泥のような味噌汁を作って、薄めていったら1週間飲み続けるはめになったとか、
それと同じだよ。頑張れアスカ。
40分ほどが過ぎ、各乾燥機の中身を、どんどん袋の中に詰め込んでいく。
「あちちちち!」
ジーンズの金具は未だ高温のまま。
「あれえ、これまだ乾いてない。」
分厚いコットンパンツが乾いていない。
これもコツなんだけどね。それもそのま詰め込まないでもう一度乾燥させないと。ああ!
「おかしい。袋が足りない!」
そりゃふっくらするわけだからカサ増えるよね。しょうがないので抱きかかえて後部座席に運んでいく。
走り去る赤い車。
危ないところでシンジが帰ってくるのには間に合った。お風呂も沸かしてあるし、掃除もできる限りやった。
窓ガラスだってぴかぴか。トイレまで磨き上げた。
「凄いな、アスカがこんなに家事ができるなんて。見直したよ。
いつでもお嫁にいけるね。」
にっこり笑いながら、「このオオボケ野郎…」と呟いてみる。
「お嫁にいけるじゃなくて、お嫁にもらう、だろうが。」
御飯もできてる。絶対失敗しない夕食。大缶業務用カレーを鍋に開け、肉をさいころに切って炒めたのを入れた。
あとはトマトとセロリのサラダを付けただけ。それでもシンジは美味しい美味しいと食べてくれた。
食後はコタツでくつろぐ。
「あれ?これなに?」
シンジがコタツの中から洗濯物をつかみ出した。しまった。
「あ、ちょっと乾ききらないのがあったからコタツで乾かしてたの。」
「これ、先週のアブラ汚れの…凄いやアスカ、どうやってこんなに綺麗に落としたの?」
思わぬところで褒められて、あたふたと説明。
「洗濯機を改造した?そこまでやったの?」
家事に情熱を注ぐ少年シンジは感動の面持ちでアスカを見つめた。
がさつさが唯一の欠点と思っていた少女がそこまで… いつもより10倍可愛く見えるよアスカ。
「じゃ、一緒に洗濯物畳もうか。」
大好きな男の子に提案されては嫌も応もない。
カッター、セーター、マフラー、ズボン。
自分の下着と、相手の下着なんかも、意識しない風を装ってきちんと畳む。
「あ。これ。」
それを見て思わず二人の顔が赤らむ。
シンジのカッターが、アスカのショーツに腕を差し込んでいたのだ。
「まだ早すぎるよ。」
慌ててシンジがそれを引き離す。
「まだってことはそのうち良くなるわけ?」
すかさず冗談めかして言うと、シンジは赤くなる。そうか、意識してないわけじゃないんだ。
ここで追い討ちだ!
「そのうち…って、いつ頃?」
「し、知るわけないだろ。」
「高校、卒業したら?」
はっとしたようにアスカを見上げるシンジ。
「ぼ、僕は…」
何よ、ちゃんと言って御覧なさいよ。と少女は思って待っている。
「僕は。」
声が小さくなる。黙ってしまう。…アスカは手にしていたものをシンジの顔に投げつけた。
「うわ、なんだ、えっ!」
それはアスカの花びらのようなショーツ。
「畳んだりはするクセに、な、ななな、中身に触りたいとか思わないわけっ!意気地なしっ!」
思わず叫んじゃったけど、アスカ一世一代の。あああ、何てことを!!
顔を真っ赤にして立ち上がって逃げようとした身体。
そこにタックルしたのはシンジ。
猛然と、まさしくケダモノのように、唇を奪われて、息もつけない。
「んっ、んんっ。」
もう駄目、と思ったときに唇が離れた。ごりごり唇をこすり付けられただけのファーストキッス。雰囲気も何もあったもんじゃない。
顔を見つめながらシンジは息を荒くして肩と腰を抱いてる。その腰の手が腿の上を撫でた。
「ひゃあっうっ!」
思わず一回転して体をかわし、壁のところまで逃れて体を抱きしめ、威嚇していた。
「な、ななな、なにすんのよっ!」
「だ、だってアスカが。」
「あ、ああそうか。でもすぐにはだめっ!」
「すぐには駄目って、いつならいいんだよっ。」
「そ、そうよ、卒業したら、卒業したらだよっ!」
それって、3月25日。あと6日先でしかないことにアスカは気が付いていない。シンジはじゃあ、その日まで待つよ、と応えた。
「だからどうすればいいか聞いてるんじゃない!なんとかしてよ!」
ネルフの女達が集合、あ〜んどヒカリ。
「自分の言ったことだからねぇ。逃れようはないんじゃない〜?」
「避妊薬ならモーニングアフターでも一ヶ月効果の続くデポ型でも提供するわ。」
「でも、やっと苦労を乗り越えてきた2人が結ばれるんですね。アスカおめでとう。」
「既定路線で話を進めないでよっ!」
「自分に素直にならないと、後で後悔するわよん。」
「最初は怖いかもしれないけど3回もすれば良くなるから。何なら先に手ほどきでもしてあげましょうか?
男女間のことは先手取ったほうが勝ちよ。」
「だめだこりゃ。ヒカリ〜。」
「碇君毎日うちに来て、アイダとトウジと3人でビデオ学習してるわよ。
そうして夜はシンジと惣流のためやて、私がモデルになって初心者向け体位の新しい技の開発モデルしてるの。きゃっ!」
「うッ、この裏切りものおおおおおおっ!」
「ちょっと媚薬でも舐めておくと楽よ、アスカ。」
「おっ酒もいいわよん!」
ああ、着々と25日が迫る。嬉し恥ずかしのアスカとシンジであった。
「うれしはずかしじゃない、こういうのは絶体絶命って言うのよ〜〜っ!」
残念ですが続きません(^^)