「…で?」

地獄の底から響くような声を吐き出す艶やかな唇と、超高温の恒星の青さを持つ魅惑の瞳とを引き立てる、さらさらとした赤い髪。
赤い流れるようなその髪が、俯き加減になっていく彼女の体勢と共に、徐々にその表情を覆い隠してゆく。

「で…って、言われても…」

その黄昏よりも暗き表情と、血の流れよりも赤い頭髪を持つ少女の前に立つ、愚か者。
人呼んで天下無敵の唐変木。
女心を見誤る事にかけては右に出るものが居ないと言われる、ここ第三新東京市で「お付き合いしたい男」のランキングトップをひた走る天然女タラシ。
またの名を碇シンジ。
たった今、プロポーズの言葉を待っている彼女に「僕と付き合ってください」などという、見当違いな言葉を発したばかりのお間抜け男である。

リンク記念SS

お題:LAS

作 でーぶ

「…センセェ。ほんでワシらにどないせぇっちゅーんや?」
第三新東京市にある、とある喫茶店。
シンジは旧友二人を呼び出して先日の一悶着を話して聞かせた。
面白くもなさそうに、喫茶店のテーブルに頬杖を付いて一足先に運ばれたコーヒーを啜る、黒いジャージのイカス奴。
シンジにとっては仲睦まじい恋愛関係を保っている、唯一といえる知り合いである。
他にも婚姻関係を結んでいるはずの妙齢の男女は幾人か知ってはいるが…そのどれもが尋常とはいえない仲なので相談し辛いのである。
不倫親子丼の末に尻に敷かれている血縁者や、タラシな旦那を持つお祭り騒ぎ大好きな元保護者などにはとてもとても…。
「何って…何かアドバイスをもらえないかなって…。あ、ありがとう」
言いたいことが伝わらないもどかしさに焦れつつ、シンジの注文した紅茶を運んできたウェイトレスに軽く笑みを浮かべて礼を言う。
と、何故かふわふわとした足取りでテーブルから離れてゆく。
「どうしたんだろ、体調でも悪いのかな?」
「んなわけあるかい」
軽く首を傾げながらそう言うシンジに、トウジが思わずビシッと右手を突き出して突っ込む。
そんなシンジを、薄暗い店内の照明をその眼鏡に写り込ませて、睨むようにねめつけるもう一人。
「…本気でいってるのか?」
呻くように声を発するのは、ジャージメンの横に座る相田ケンスケである。
「何が?」
まったく意味不明だ、とばかりに首を捻る、目の前の、およそ自分が望んでも到底手に入れられることのない状況を、まったくの無意識に築き上げる男に哀れみと羨望とを感じつ
つ、深い溜め息を吐く。
現に先ほどのウェイトレスのみならず、道路に面した窓側のこのテーブル席を認識した通行人の女性は、一様にこちらに…というかシンジに気を取られ、同様の状況にある女性と正面衝突したりしているのだ。
二人そろって溜め息を吐き、いつもの調子を無理矢理引き戻す。
「どうします?鈴原さん。こんな事言ってらっしゃるけど」
「そやねぇ、相田さん。取り合えずココの払いは碇さん持ちって事は確定でよろしいんやないかしら?」
何の打ち合わせもせずに、急に奥さん言葉で会話を始め、勝手な結論を出す二人。
「て事で、おねーさーん注文追加ー!」
やってられるかコンチキショウといった雰囲気を漂わせながら、やけのように注文し始める。
「…いいけどさ。僕の話ちゃんと聞いてよね?」
取り合えず他にまともに相談できる相手の居ない彼にとっては、甘受せねばならぬ出費であった。

目の前の二人がマトモな相談相手かどうかは保証の限りでは無いが。

「で?」
「…なによ。で、って」
「だから、で?」
これまた似た様な問答を始めている、とある甘味処のテーブルを占拠中の女性2人。
「…だーかーらぁ。バカシンジがさ?こないだホテルのレストラン予約したからって待ち合わせて行った訳よ。やっぱそんな風に改まられるとさ?期待しちゃうじゃない」
あらかた食い尽くされ、その形を液状に変化させつつあるアイスクリームの入っていた硝子の器片手に力説する。
この店名物の巨大パフェを毎度毎度完食し、あまつさえお代わりをする、どこにソレが入るのか疑わしいウエストラインを維持する美貌の持ち主、惣流・アスカ・ラングレー。
「それは聞いたわよ。で、いざ口を開いたら今更何ふざけた事言ってるのっていうお話をされたって言うんでしょ?」
まったくどっちもどっちなんだからと、此方はごく普通サイズのクリームソーダフロートを、それでも体重を気にして恐る恐る口にしている、今や腐れ縁となってしまっている洞木ヒカリ嬢。
「そーなのよ。まったく話にならないってのよね」
そう言って、最後に残った液状のアイスクリームであったものを器に口をつけて口腔内に流し込む。
見ただけでおなか一杯なサイズのソレを、いとも簡単に片付ける様を眉を顰めながら見つめるヒカリ。
そりゃぁアスカの言うとおり、大学では誰憚ることなく仲睦まじく寄り添いあい、昼ともなれば手作りのお弁当を木蔭で並んで食べたり、休日ともなれば腕を組んで街に繰り出す間柄であるにも拘らず、今まで付き合っていると認識していなかった碇シンジにも問題はあろう。
だがしかし。
相手は碇シンジなのであるからして。
「…ねぇ、アスカ?」
「何?」
次に口にするブツを物色しているのか、メニュー片手に頬杖をつくアスカに視線を合わせないように窓の景色を見ながら、言う。
「碇君とは…もうシタの?」
ストン、と手にしたメニューをテーブルに落としあからさまにあたふたと慌てふためきだす。
「んなんなん何言い出すのよ!イキナリっ!とっ当然じゃない」
空になった硝子の器を危うくリノリュウムの床に叩き落しそうになりながらもどうにか反論らしきものを始めるが、何処か視線が泳いでいるのが長年の付き合いのヒカリには手に取るようにわかってしまう。
「当然…何にもないわけだ。碇君もかわいそう」
わざとらしくナプキンで目尻を押さえ、悲涙に咽ぶかのようによよと顔を伏せる。
以前ならばいざ知らず、長年普通に付き合って既に男女の関係になっている鈴原という恋人が居るヒカリにとって、他の女友達とそういった話題になることも度々である。
超が数個付くほどの容貌を持ち、大学はおろかシンジ同様第三新東京市にその名を轟かすアスカではあるが、そっち方面で実際にどうこうしたという話は全く欠片もこれっぽっちも聞いた事が無い。
自称アスカとどうにかなったなどという男の噂が何度か流れた事があったが、にべも無く振られた腹いせであったり只の流言蜚語だったりしたのだ。
遥か以前、今や遠い過去の思い出といった感じのあの頃に「とってもかっこいい」とアスカが賛辞していた男性相手に迫った事もあったと聞くが、彼がアスカに対してそう言う行動に出たという話も寡聞にして知らない。
パクパクと酸欠の金魚のようなアスカに盛大に溜め息を吐き向き直る。
「あのね、アスカ。やっぱ男女の仲ってそー言うことって大事だと思うのよ。碇君だって
例外じゃないんじゃないかしら。だから、一線を越えられないのは、その…ちゃんと言ってないからだって思ったんじゃ無いのかしら」
碇君律儀だから…と口にはせず思うヒカリ。
「…アタシだってさ。したくないって訳じゃないのよ。ただ…」
「ただ?」
空になった巨大な器に立てた、長いスプーンをからころと弄りながら、頬を紅に染め周囲を警戒するように視線を巡らせ口を開く。
「…怖いのよ」
ポツリとそれだけ口にしたアスカ。
ソレを聞いて思わず目を見開いてしまう。
「怖い?碇君が?」
あんなに優しい碇君のどこが!?と声を大にして叫びたくなるヒカリ。
あの碇君が怖いんだったら他のどんな男だったら良いのよと。
「シンジがって言うかさ。あの、あのさ?」
更に頬の紅を濃くし、ヒカリを上目遣いに見つめながら言いにくそうにおずおずと再び口を開く。
そんなアスカの表情に、同性ながら思わずごくりとつばを飲み込んでしまう。
「男の人のあれって…あんなの入って死んじゃったりしないの?」
「はぁ?」
うぶなねんねじゃあるまいし、などという時代がかったセリフがヒカリの脳裏を埋め尽くす。
「…なによ、どうせシンジとはキスまでしかシタ事ないわよ。悪い?」
唖然とした表情のヒカリを、呆れられたと認識したアスカ。
どうせもうバレバレだわと唇を突き出して拗ねつつカミングアウトする。
「…大丈夫よ。私だって最初は痛かったけど、ね。好きな人とそうなったんだって充足感もあってね、痛いのも「ああこの人と繋がったんだなぁ」って心が満たされる感じでね」
いやんいやんとばかりに軽く身を捩りながらそう言うヒカリを、訝しげに見つめる。
その、テーブルに遮られて見えないはずの下半身を、である。
「…ほんとに?」
上目遣いに見上げつつ、心細そうにそう言うアスカ。
「大丈夫っていってるじゃない。じゃなきゃ私たち生まれて来てないわよ」
奇妙な視線に居住まいを正し相槌を打つ。
ちょっとこの間の逢瀬を思い出してしまったりして、アスカには及ばないがヒカリも頬を染め、照れ隠しに頬をその手で押さえる。
冷たいグラスの温度が移った手の平がちょっとだけ火照った頬に心地よい。
「あんなの…が、ここに入るなんて…」
と、すべらかな指を丸くしたソレを見て、ヒカリが固まる。
「あ、あの、アスカ?」
「なによ」
頬を若干引き攣らせたヒカリが、震える指先でアスカのソレを指し示す。
「その、碇君のって…」
「…ん。前に朝起こしに行った時見ちゃったんだけど…こんなくらい」
そう言って指先で大きさを示す。
片方の指をOKサインのように親指と人差し指を曲げ、他の三指はまっすぐ伸ばす。
その親指と人差し指との間隔は、彼女の知る唯一の男性のサイズを遥かに凌駕している。
そうしてもう片方の手の指先が、彼女の肩幅よりも若干狭い位置で示されている。
「…ふ、ふーんそうなんだ」
そう言ったきり、上の空のヒカリ。
「ヒカリ?どしたの?」
アスカの問いかけに気付いているのかいないのか。
とっくに無くなってしまっていたクリームソーダを、ズズズズと下品な音を立てていつまでも吸い続けるヒカリであった。

「そらセンセ、やっぱし自分が悪いんちゃうか?」
「…うらやましい」
別々の口から同時に放たれた言葉に、どう返答していいやらわからぬシンジ。
「ワシらとっくに付きあっとる思とったしな。惣流かてそやろ。実際あんだけべたついとって、恋人ちゃう言うほうが変やっちゅう話や」
ヤラしてもらいたいから告白っちゅーのんもアレやが、と咽喉まででかかったが言葉にしない。
考えた事をそのまま出していた昔と違って、一旦吟味してから声に出すように習慣づいているトウジ。
長年のヒカリによる調教…もとい、教育の賜物であった。
ケンスケはと言うと、アレで付き合ってないって言うんだったら正式に付き合い始めたらどんなすんごい状況に!などとハアハアしていたりする。
一人妄想しているケンスケを放っておいて、話しを進めようとする二人。
だがそこに、ヤケに軽い声がかけられる。
「いようシンジ君。聞くとはなしに聞いてしまったが、悩み事のようだな?」
「加持さん…」
シンジが相談相手にしようとしたが、その女性相手の素行の悪さを知っているだけに相談に踏み切れなかった男、加持リョウジである。
もう40に手が届こうかと言う年齢にも拘らず、未だに妻以外の女性に粉を掛け捲っていると言う噂は枚挙に暇が無い。
「女性関係の事なら及ばずながら相談に……ど、どうした二人とも。そんな顔をして」
二人、というのはケンスケが未だ夢の世界へ逝ったままだからである。
「だって加持さん…ミサトさんを怒らせてばっかりじゃないですか」
シンジの言葉にウンウンと頷くトウジ。
そんな二人の対応に頬を引きつらせるが、瞬時に気を取り直す。
「ま、まあそう言うこともあるが…あれは…そう!アレは裏の仕事でホントの事が言えない時に止むを得ずだな」
「…ミサトさんのほうが階級上なんやないんか?」
隠す必要があるのか?と暗に訴えている。
「うん。っていうか、直属の上司だけどね…馬鹿なことばっかりするからって」
「いや、ソレはなんと言うか…」
下手な言い訳がさらに自分を貶めてしまうあたり、今更ながらに加持の地金が露呈してしまう。
ちなみに加持も、死んでいた筈なのにサードインパクトによって帰還した者の一人である。
あの紅い海から復活した人々を纏め上げるのに、ネルフはそのその総力をつくした。
黒き月としてリリスの掌中にあったはずのネルフ本部は、天井都市の大穴以外は何故か以前のままの状態で復活しており、その内部の人員も、戦自に付けられた施設の傷跡はその
ままに、ほぼ全て無傷であった。
世界中が訳のわからぬ状況に戸惑っている最中、いち早く状況を理解し得たネルフは原状回復に奔走した。
ゼーレの年寄り連中など、戻ってこなかった人も居るには居たが、えてして社会通念上尋常では無い人々ばかりが目についた。
恐らくは、サードインパクト時にリリスとアダムであった綾波レイと渚カヲルによる選別だったのではないか、という仮説が立てられているが、真実は闇の中である。
ともあれネルフは、上層部が戻ってこない為に瓦解したゼーレや国連の業務を代行する形で現在に至り、いまや名実共に国際連合を超える組織としての地位を確立しているのである。
「加持さんが絡むと余計ややこしなるんちゃうか?なあ?」
「へ?あ…あぁ、そうだな。これに関しちゃ傍観者に徹しててもらえないですかね」
トウジの肘鉄で漸く意識を現実に引き戻したケンスケがずれた眼鏡を戻しながら加持に意見する。
「…そうか。なら俺は聞かなかったことにするよ。じゃあな」
いつもどおりの飄々とした態度でその場を去り、会計を済ませて出て行くのを視線で追っていた三人が、またゾロレジを打つ女性に声をかける様子を見て、「やっぱり…」と肩を落とし、更に彼に関する評価も落としたのであった。

「…そう、良かったわね」
「アンタにゃ聞いてないわよ」
「ちょ、ちょっとアスカってば」
ここは第三新東京市の大穴に、蜘蛛の巣のように架けられた橋の中心部に位置する建造物、ネルフの新たな本部である。
現在世界中の国家の調停役として、いざとなれば実力行使によりその紛争を仲裁するという、とても素敵な組織として君臨していた。
現在保有している量産型エヴァ改は6機。
世界中を武力支配しようと思えば出来うる力を持ちながらも、調停役としての地位で甘んじているといえば聞こえは良いが…。
要するに直接各地域を統治出来るほど手が余っているわけじゃないからである。 「まぁったくもう。なんでこうまでややっこしい状態になるかしらねぇ」
「…無様ね」
現ネルフが誇る統合作戦本部長、葛城ミサトと、同じくネルフの脳髄ともいえる技術局最高責任者、碇リツコ博士(旧姓赤木)。。
かたや30台半ばの脂の乗った姿態を惜しげも無く振り回し、世界中の紛争地帯を駆け巡り、その首根っこを押さえつけて半ば無理矢理握手させるという調停方法を得意とする
“身勝手な自由の女神”と一般庶民 に は 支持されているネルフ本部が誇る女傑である。
もう一方はと言えば、サードインパクト後、戻ってきて以来放心したままの司令の尻を引っ叩き活動再開させ、いつの間にやら入籍まで済ませていた彼女。
戦自侵攻時に、ジオフロント最深部で何かとんでもない事をしようとしていたらしいが思い叶わずこの世に戻ってきた彼女。
なにをどう思い立ったのか、復帰した早々MAGIにインストールされている母のデータを自分のものと取りかえるとかで大忙しであったそうな。
世界中のコンピューターを、その新生MAGIの配下に置き、ありとあらゆる電子機器を手足のように使う彼女を“電脳世界の魔女”と呼び習わすようになって久しい。
その彼女、世界が落ち着いてから腐れ縁の親友によくもまあ色々と思い切ったわね、と聞かれて。
『…開き直るとなんでも出来るって事ね』
などと嘯いてたとか。
「ちょっとミサト?そんな言い方ないでしょ!っていうか!なんでファーストがここにいんのよ!!」
アスカとヒカリが相談に訪れたネルフ本部統合作戦本部長執務室で出迎えたのは、当の葛城ミサトにリツコのみならず、何故か完全な人として甦った綾波レイまでいたのである。
今現在、ネルフ総司令碇ゲンドウ夫妻の養女として小学校通いの毎日であるレイ。
彼女はサードインパクト直後にリリスが安置されていたドグマにあったLCLの海に小さな赤ん坊の姿で揺蕩っていたのだ。
「ろくに面倒見てないのに順調に育っちゃって。お義母さんとしては複雑よねぇ?」
「…そうでもないわ。前の時はあの実験の後、たった10年で中学生くらいにまで成長してたんだし…遅いくらいね」
あの実験、とはユイが初号機に取り込まれた際に行われたサルベージ計画である。
2004年に生まれて2015年には中学生として学校に通っていたのだから、どんな成長をしても驚くことでもないと簡単に言うリツコ。
その背後で「…碇君、もうちょっと待っててね」などと言わなくていい事まで言ってしまうレイ。
どうも、過去の経験(首絞められたり)は活かされていないようである。
危うく最後の綾波レイがアスカの手により天に召されそうになるところであったが、約1名の女性がタマタマ所持していた精神安定剤により事なきを得たり。
「で…。アタシはミサトにだけ相談するつもりだったんだけど?」
漸く落ち着きを取り戻したアスカが口を開く。
「わぁかってるわよぉ。シンちゃんのナニがアレなモンで怖いんでしょ?」
「んなっ!」
まだ何にも言って無いと言うのに何故に!と顔を真っ赤にする。
ニヤニヤと嬉しそうに笑うミサトに視線をぶつけるが、平然としたモンである。
「身体的な問題なら私の出番、そう言うことよ」
と、こちらはあくまで内心を表に出さずに冷たく口角を持ち上げる。
「…おにいちゃん、だから」
と言って、ポッと頬を染めるレイ。
「…あんたらね」
各々の言葉に一々青筋を増やしながらも口元を引き攣らせるに留めるアスカ。
感情に任せて暴れてやりたいところであるが…この連中を敵に回すなどさすがに現状では不可能である。
特に未だにテスト等で日常的にお世話になることの多いリツコなどにしこりを残すような事にでもなれば、落ち着いてシンクロも出来なくなってしまう。
「あんた達が未だにSSS級のVIPだって自覚、あるの?」
どんな内緒話も全て何処かに仕込まれた盗聴器でMAGIによりチェックされているのである。
「ぷっ、プライバシーってモンを…」
「あるわけ無いでしょうが、エヴァのパイロットにそんなモン」
にべも無く、一言で切って捨てられる。
だが『よかった…まだやる前で』などと何処か安堵している自分も居たりするのに気付く。
が、しかし。
「いゃあああああ~~~~」
急にしゃがみ込み、涙を流しながら頭を振るヒカリ。
「私、私…うぇぇぇええええええ~~ん」
大泣きに泣き始めたヒカリに慌てるアスカ。
「ど、ど、どうしたのよヒカリ!何があったの!?」
と、そこまで言ってで思い至る。
「…そっかぁ。彼女の男って鈴原君だったわねぇ」
仮にもフォースチルドレンたる鈴原トウジ。
彼の周辺も、シンジやアスカと同様のセキュリティーレベルでの監視がなされていたのである。
そりゃ泣くわ、とミサトも溜め息を吐く。
「…初めての日から今までのバックアップ、消してあげないと駄目かしら?」
「「「「消して!」」」」
小首を傾げて言うリツコに、こればっかりは全員一致で異口同音に賛成するのであった。

「ねえ、そろそろ泣き止んでくんないかしら。内容確認はMAGIが自動でやってる事だし、
他の誰も実際聞いてたわけじゃないんだからさぁ?」
目を真っ赤にして泣き腫らすヒカリを、腫れ物に触れるようにしてあやすミサト。
「…そりゃあショックよね」
アスカにとっては他人事では無い。
下手をすれば同じ立場であったのであるから。
「…さすがに無様ねとは言えないわね…もう誰もログに触れる事は出来ないようにしたから、安心してちょうだい」
「…ぐす、ホントですか?」
さすがにこういった手合いを相手にするのは不慣れなのか、リツコの口調も腫れ物を触る
ように優しげである。
「…その方面に関してはお義母様が嘘をついたことは無いわ。…都合が悪い時はホントの事を言わないだけ」
安心させようとしたのだろうが、逆に不安が募るような言い方をするレイ。
誰に似たのであろうか(笑)

「さぁって。ソレは兎も角、アスカの杞憂を何とかしてあげないとねン」
そうミサトが言うと、とたんに部屋の照明が落とされ壁の一面がディスプレイと化し、映像が表示される。
シンジの過去から現在までのプロフィールが事細かに映し出され、幼いシンジから順次スライドのように移り変わってゆく。
「か…可愛い♪」
小さなシンジが、両手に赤い飴玉を乗せて母親に差し出すシーンなどは全員の母性本能をくすぐる仕種であった。
「をっ、ウチに始めて来たときのお宝映像もあるわね」
ニヤリと笑うミサトが画像を止める。
中学生と思しき頃のシンジが素っ裸で、リビングで寛いでいるミサトの前に慌てふためいて出てきていた。
その局部は冗談のように缶ビールで隠されている。
「これってさぁ、ペンペンがお風呂に入ってるの知らなくってさぁ。シンちゃんが驚いて飛んで出てきたときになのよね」
過去を振り返りながら説明するミサトの顔には、ただただ懐かしさに感慨深くなっているだけでは無い何かが浮かんでいた。
再生再開。
シンジの局部を隠していた缶ビールがミサトにより取除かれ、すわ丸見えかと皆が咽喉を鳴らしたが。
更に小さい小瓶で遮られ、ご開帳には到らなかった。
がっくりと肩を落とした皆を見ながらけらけらと笑うミサト。
「あの頃のシンちゃんは可愛かったンだけどねぇ。で?今の推定サイズは?」
「…これよ」
リツコが懐のリモコンを操作して画像を切り替える。
シンジの上半身のCGが浮かび上がり、徐々に下方へと移ってゆく。
「大胸筋から腹筋の発達はこの骨格としては理想的ね。で、肝心のところだけど…」
【NODATA】
そう大きく表示される。
「彼、ここ何年も画像に残るようなところに身体をさらして無いのよね…。定期健診でもさすがにそこのサイズは調べないし…」
と、溜め息を吐くリツコ。
リツコとしては確実なデータがないうちは判断保留にするしか無いのである。
ソレは新たに彼女のコピーをインストールした新生MAGとて同じ事。
「なんなら私が調べてこよっか?」
「却下よ!」
オチャラケたミサトがそう口にしたとたん、アスカの必殺の拳が彼女を襲う。
紙一重で避けたミサトが声を震わせながら何とか口を開く。
「じょ、冗談に決まってるじゃない。まだ加持しか知らないんだから、私だって」
意外に一途なミサトであった。
肩で息をしているアスカに薄く笑みを浮かべながら、リツコが口を開く。
「…彼自身のデータは確かに無いわ。でもね」
そう言うなり画像が消去される。
「彼の父親のデータは嫌って言うほどあるのよ?」
ニタリと笑い、顎で映像を指し示す。
シンジとゲンドウの遺伝子の相違を走査し、再構築。
生活環境やその他、考えられる限りのファクターを組み込んでデータを再構成。
そこに浮かび上がったソレは…。
「…うそ、シンちゃんってば…」
つば付けとけばよかったかしらン、などと考えていたりするミサト。
「凄いわね…」
ああ、やはり貴方の息子でしたわ、ゲンドウさん。などと心の中で母としての気持ちが溢れるリツコ。
「「「…ゴッキュン」」」
そうして、一様につばを飲み込んで凝視している三人もいた。
「…あんなの、ホントに入るの?」
「ああああああアスカ?骨は拾ってあげるからね?」
「…あーん」
「アンタはなにしてんのよっ!」
肩を抱き合って震えるアスカとヒカリをよそに、一人お口を大きく開けているレイがいたり。
「ちょっとリツコ!アンタんところじゃどういう教育してるのよっ!」
レイの襟元を掴んで義母に突き出すアスカ。
「…まだ性教育は施していないはずだけど…」
頬に指を当て首を傾げるリツコ。
「…毎晩うるさいから。目、覚めるもの」
レイの言葉に、ぶふっ!と吹き出すリツコ。
「…ぶひゃひゃひゃひゃ!」
マジ笑いで腹を抱えるミサト。
「わ、笑っちゃ駄目よアスカ。ぷっ…くくっ」
「ヒッヒカリだって…くっ、くふふ」
真っ赤になって小さくなるリツコに大爆笑な三人。
そんな4人を尻目に、レイ一人だけが熱心にシンジのデータ(推定)を書き留めていた。

「…ねえアスカ」
「どしたの?シンジ」
第三新東京市の繁華街を歩く二人。
何故かアスカの方からしおらしく折れてきたため仲直りできたのであるが…。
結局シンジが相談した二人は何の役にも立たなかったのでありました。
さて。
この二人が並んで歩くと、周囲の視線が集中するのはいつもの事であったが。
「なんだかさ…いつもよりじろじろ見られてない?」
いつもであればアスカは美人だからなぁ、といった感じで自分が見られているとは毛頭考えもしないのだが。
「…気、気のせいよ、うん」
いつもならば男女共に嫉妬と羨望の入り混じった視線であるのだが、今日に限っては全く違っていた。
女性は何故か一様に畏怖と欲望が絡み合った視線で。
男性からはと言うと、滂沱の如く涙を流しつつ、シンジに『憎しみで人が殺せたらっ!』
と言う感じの視線が注がれていた。
アスカの頬を伝う汗は、日中の暑さのせいばかりではあるまい。
シンジの腕に抱きついたアスカが、ひょこひょこと拙い足取りで歩く姿は、目を引かないはずが無いのであった。

「…し、死ぬかと思ったわよホント」

「…碇君の子供が生まれたら…その時は…」
うふふふふと、柔らかい笑みを浮かべる綾波さんが成長を抑制しようとドグマの底で頑張っていたりするのはまた別の話。

Author: でーぶさん
初出: 2006.01.18
はい。でーぶさんにリンク記念に頂きました!
書いてくださるというお言葉に甘え、LASがいいとか、スパシンがいいとか、
訳の判らない願望を言ってみたりしたのですが、タイトルそのまんまの内容ですねっ!

…いえ、裏切られたかもしれない…。
たしかにスーパーはスーパーだったけど、それが、"ごく一部"…うう。
でもっ!甘いからいいですっ!!(開き直り)

こんな素敵な作品を書かれた でーぶさんへご感想をお願いいたします。
でーぶさんのサイトはこちら。当方に使徒迎撃の用意あり!!
WebMaster: AzusaYumi